2023年吉川弘文館
2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の主人公は紫式部(吉高由里子)で、「望月」の権力者・藤原道長(柄本佑)との関係がドラマの主軸となるようである。
王朝ファンの一人として楽しみである。
王朝時代研究家で多数の本を書いている繁田信一の周囲が賑々しくなるであろうことは、まず間違いあるまい。
繁田信一カテを立てた。
藤原道長(966-1028)の孫の孫とは、藤原忠実(ただざね)である。
生没年は(1079-1162)だから、道長とは約100年の隔たりがある。
藤原北家の嫡流として摂政・関白・太政大臣をつとめ栄華を極めたものの、保元の乱(1156)では実の息子忠通と対立し崇徳上皇方についたため敗北・失脚し、晩年は平安京北郊の知足院に幽閉され、そこで最期を迎えた。
時代は武士の世に変わりつつあった。
幽閉の身にあった忠実は、折に触れ、家司である側近2人に昔話――代々伝わってきた偉大な先祖、道長・頼通をめぐる逸話――を披露した。
それらは、道長・頼通の身内だからこそ知り得る、また彼らと同じ身分だからこそ話せるプライベートな、忖度のないものであった。
それが中原師元著『中外抄』、高階伸行著『富家語』として今日まで伝わっている。
本書(副題「百年後から見た王朝時代」)は、この2つの作品に残された忠実の言葉を通して、華やかなりし王朝時代最盛期を、これまでとはちょっと違った角度から描いてみようという試みである。
「プライべートで、忖度のない」という評が一番現れているのは、藤原道長の容貌に関する話であろう。
道長はどうやらハンサムとは程遠く、鼻の先や頬骨などが紅をつけたように赤かったらしい。
公式の記録やほかの貴族が残した日記などでは書かれなかった真実である。
王朝時代の人物で「鼻先が赤い」と言えばすぐに思いつくのが、それこそ紫式部『源氏物語』の登場人物、末摘花であろう。
何度か床を共にしたあと初めて彼女の顔を見た光源氏は、その容姿を「みっともない」と心のうちで嘆じた。
ここからだけでも、『末摘花』の巻が、少なくとも紫式部が道長の娘彰子に仕える前に書かれたことが明らかである。
みずからの主人の父親で、時の最高権力者の容貌を愚弄するような物語など書けるわけがない。
それとも、それを笑い飛ばすくらいに道長は大らかだったのか?
あるいは、道長と紫式部は遠慮ない間柄だったのか?
ほかにも、道長が常に北を向いて手を洗っていたとか、穢れや凶日の慣習をたいして気にしていなかったとか、老いたる者の「色」である白の衣装を好んで着ていたとか・・・。
あるいは、息子の頼通が異常なほど寒がりであったとか、客人の牛車を勝手に乗り回していたとか、癇癪持ちでささいなことで食膳を引っくり返したとか・・・。
あるいは、当時の貴族たちは天皇の本当の名前を知らないのが普通だったとか。(しかし現代でも、たとえば令和天皇の本当の名前がすぐに出てくる人は少ないかもしれない――徳仁なるひとである)
トリビアで面白いエピソードがふんだんにある。
さすがに、本書を読んで、NHKが道長=柄本佑の鼻を赤く塗ることはないと思う。
頼通は男色で有名だったはずだが、そこはLGBTムーブメントの盛んな折り、とり入れるかもしれない。
本書中、道長が「謎の童随身(わらわずいしん)」を侍らせていたエピソードがある。
ソルティ思うに、これは衆道相手ではないかしらん?
道長がゲイあるいはバイだったというのではなく、当時男色はありがちだったろう。
道長がゲイあるいはバイだったというのではなく、当時男色はありがちだったろう。
繁田信一にはいつか、『王朝時代のBL事情』を書いてもらいたいものだ。
ヘテロ男子には難しいかな?
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損