2019年アメリカ
109分

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 エミリオ・エステべスと言えば、マーティン・シーンの息子で、チャーリー・シーンの兄である。
 チャーリー・シーンは、80~90年代、トム・クルーズと並ぶイケメン人気スターだった。
 『地獄の黙示録』ほか名作出演が多い偉大な父親と、暴力事件やHIV感染など何かとお騒がせな弟の陰に隠れて、エミリオはあまり目立たない存在だったが、いつの間にやら映画監督になっていた。
 テレビ映画をのぞけば、本作は6本目の監督作品となる。
 前々から、なぜ父親や弟と姓が違うのだろうと不思議に思っていたが、エステべスは本名であり、シーンのほうが芸名だった。
 マーティン・シーンの本名は、ラモン・ジェラルド・アントニオ・エステベス。
 チャーリー・シーンの本名は、カルロス・アーウィン・エステベス。
 スペイン系である。

 本作で示される脚本家・監督としてのエミリオの技量は、なかなかのものである。
 構成やセリフもこなれているし、演出もカット割りもそつがない。
 ホームレスの人権や人種差別や格差社会という重く暗くなりがちな社会的テーマを扱いながらも、笑ってホロリとして感動できる、家族で楽しめる娯楽作品に仕上がっている。
 その絶妙なバランス感覚は天性のものだろう。
 他の監督作も見たくなった。

 本作の舞台は The Pubic すなわち公立図書館。
 市の図書館にたむろするホームレスたちが主人公である。
 ホームレスたちにとって、図書館はオアシスであるとともに、ライフライン(命綱)である。
 警察に追い回されたり、一部住民の襲撃に怯えたりすることなく、柔らかい椅子で体を休めることができる。
 洗面所で顔を洗い、髭を剃ることができる。
 猛暑の夏や極寒の冬は恰好の避難所となる。
 いろいろな情報を無料で手に入れることもできる。
 公立であるがゆえ、原則、施設側はホームレス利用者を拒否することはできない。
 正当な理由なく拒否すれば人権侵害となり、訴訟問題へと発展しかねない。

 エミリオ・エステベス演じる図書館員スチュアートは、ほかの利用者からの苦情を受けて、悪臭を放つホームレスを図書館から追い出した。
 そのことで、図書館すなわち市は、くだんのホームレスから訴えられ、巨額の和解金を支払う羽目になる。
 スチュアートは解雇を告げられる。
 そんな折、大寒波が街を襲った。
 凍死におびえるホームレスたちは、閉館時間が過ぎても図書館から外に出ようとせず、一夜の滞在をスチュアートに乞う。
 スチュアートは上司に許可を求めるが、むろん却下される。
 100人のホームレスたちの命を守るため、そして体面と規則だけで事を運ぶ行政に対する抵抗のため、スチュアートは彼らと共に図書館に立て籠もる決意をする。

図書館

 本DVDは、常日頃利用する地域の図書館で借りた。
 退職した男性高齢者の姿は多いが、ホームレスらしき人をそこで見たことはない。
 やはり、大きな街の図書館に集まるのだろう。
 どこの街だったか忘れたが旅先のこと、現代建築の粋を集めたようなスタイリッシュでカッコいい、市長が自慢するであろう立派な図書館に立ち寄ったところ、全面ガラス張りの壁面の向こうにホームレスが多数寝ているのが、人通りの多い街路から丸見えであった。
 建築設計者の浅はかさに失笑を禁じえなかった。
 いや、行政の低所得者対策の無策ぶりを市民や観光客に見せつけるには、最高のショールームだったのか?

 本作を観た図書館員の感想を聴きたいものだ。
 フォレスト出版の日記シリーズで「図書館司書編」って出ないものかな?
 

 

おすすめ度 :★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損