2020年メキシコ・フランス合作
86分
原題:Nuevo Orden

 セレブたちの集うメキシコ上流階級の結婚式。
 明るい陽射し降りそそぐ豪邸で、着飾った男女がグラス片手に新郎新婦を祝い、笑いさざめく。
 幸福感あふれる光景に文字通り水を差すのは、この家の主婦がひねった蛇口から流れ出た緑の液体。
 いったい・・・・・?
 遅れてやってきた祝い客は口々に言う。
 空港が混乱、交通規制、デモ隊・・・・。
 街で何かが起こっているらしい。
 不穏な空気が高まる中、緑のペンキを顔にかけられた女性客が登場する。
 そこから事態は急展開。
 あとは息つく暇もない惨劇、予想を超えた展開の連続。
 見る見るうちに一つの社会が崩壊し、新しい秩序(ニューオーダー)が生まれていくのを、観る者は目撃することになる。
 テロリズムからの軍事政権の誕生。

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 これは、ナチスドイツやソ連のスターリニズム、そして大日本帝国の軍部独走への過程をなぞったような政治陰謀映画であり、現在のミャンマーやロシアやタイを思わせるディストピア映画であり、格差社会の果てに起りうるテロリズムを描いた社会派映画であり、圧倒的な軍事力を備えた民主主義の法治国家が一歩間違えば辿りかねない地獄を予見した近未来SF映画である。
 リアリティある卓抜なショットの連鎖と、観る者の読解力を試すかのように余計な説明を省いたスリムな脚本、そして人間的感情を手加減なく踏みしだいて突き進むサイコパスのごとき演出によって、言語を絶するほどの恐怖と絶望がフィルムに焼き付けられている。
 この映画を観たあとには、「人間であることが厭になる」、「この世に生まれたことが不幸としか思えなくなる」・・・・
 その意味で、反出生主義を裏書きするような作品で、青少年にはあまり観せたくない。

 映画の冒頭で、豪邸の壁に飾られている一見キュビズムのようなカラフルな現代絵画が映される。
 その絵画のタイトルがラストクレジットで明かされる。
 『死者だけが戦争を終わらせることができる』
 すなわち、「人類は生存している限り、戦争を止めることはできない」という皮肉である。
 ミシェル・フランコ監督は、相当のペシミストか、あるいは現実主義者なのだろう。
 だが、ソルティもまた、こんなふうになった日本を見るくらいなら、死んだほうがマシだ。
 
 本年一番の衝撃映画。
 2度見した。

緑のペンキ


おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損