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日時: 2023年4月16日(日)
会場: 光が丘IMAホール(練馬区)
曲目: 
  • L.v.ベートーヴェン: 交響曲第6番 ヘ長調 作品68『田園』
  • A.ドヴォルザーク: チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 (B.191) 
チェロ: 印田 陽介
指揮 : 苫米地 英一

 今日は、中野ZEROで同じ時間帯に催される中野区民交響楽団定期演奏会と、どちらに行くかで直前まで迷った。
 そちらも、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番&交響曲第6番『悲愴』(指揮:高橋勇太)という鉄板の人気プログラム。
 チェロかピアノか、ベートーヴェンかチャイコか、練馬か中野か。
 結局、ドヴォコンことドヴォルザークのチェロコンチェルトの美しくも妖しい魔力に抗いがたく、光が丘に足を運んだ。
 新緑鮮やかな光が丘公園は、日曜の午後を楽しむたくさんの人であふれ、すっかりコロナ前の日常に戻っていた。
 思えば、どっちの演奏会に行くか迷うという贅沢も、数年ぶりである。
 i-amabileの演奏会リストによれば、4月のアマオケ演奏会登録件数は114件。
 これはコロナ前(2019年)同月の95件をしのぐ過去最高件数である。
 めでたい、めでたい。

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光が丘IMAホール
到着した時は青空が広がっていたが・・・

 ときに、ベートーヴェン『田園』を聞くと、昔働ていた自然食品店のことを思い出す。
 店内にはいつもクラシック音楽が流れていた。
 業務用BGMを配信する会社と契約していたのである。
 お買い物のBGMであるから、暗い曲や重たい曲や小難しい曲はなくて、軽やかで明るい癒し系の曲が何曲かプログラミングされ、それが一日中リピートする。
 とくによく流れていたのが、『田園』第1楽章だった。
 タイトル通り、牧歌的で明るく心浮き立つ曲なので、お買い物する人にとっては耳に心地よく、(たぶん)購買欲をそそるものなのだが、店内にいて一日中リピートを聴く者にとっては事は別。
 そもそもが、渦巻きのように旋回するメロディが幾度となく繰り返される曲である。
 それを何度もリピートされると、うざったくて仕方ない。
 無限回廊にはまったような気分になる。
 たいてい、そのうち店員の誰かが「もう、やめて~!」と悲鳴を上げて、電源を切るのであった。
 あれから20年以上経つけれど、トラウマなのか、今でも第1楽章にはウザったさを感じる。
 他の人はどうなんだろう? 
 けれど、このウザったさあればこそ、第2楽章の清冽が癒しとなるのは確かである。

 ドヴォコンは、オケもチェロ独奏の印田陽介も素晴らしかった。
 印田のほぼ真正面、前から4列目にいたので、手の動きがよく見えた。
 鮮やかなテクニック、メリハリの効いた力強い演奏に感服した。
 オケもよく頑張ったと思う。
 個人的に、この曲の第1楽章は、すべてのクラシック音楽の中で、マーラーの交響曲第9番第1楽章と並ぶ傑作だと思う。
 とくに、ソナタ形式の提示部(ABAB)が終わって、展開部に入ってチェロが静かに語り出す低音の調べが、「明」でもない「暗」でもない、この世の秘密に触れている気がして、いつもここで背筋が寒くなる。
 こんなことを努力もなくできてしまうドヴォルザークの天才にはたまげる。
 ブラームスが羨ましがったというのもよく分かる。
 ドヴォルザークくらい天上に近いところに最初からいた作曲家は、モーツァルトのほかあるまい。(ベートーヴェンは苦労してそこに辿りついたという気がする)

 演奏会が終わって会場を出たら、よもやの雷鳴と土砂降り。
 急激に天気が変わっていた。
 しまった! 傘がない!
 が、10分ほど雨宿りしたら、陽が射して青空が戻ってきた。
 東の空に、うっすらと虹がかかった。
 まるで、『田園』第4楽章「雷雨、嵐」から第5楽章「嵐のあとの喜ばしい感謝の気持ち」をなぞるような光景。
 雨に洗われた光が丘公園の緑を縫って、家路に着いた。
  

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