2019年141分
アメリカ、スウェーデン

 ミッドサマー(夏至)を祝うという習慣は日本では聞かれないが、キリスト教国とくに北欧では一般的らしい。
 長くひと際寒い冬のある国にとって、夏の訪れは格別なものなのだろう。
 この時期は白夜が続くので、遊ぶのにも祭りをするのにも、もってこい。
 ベルイマンの映画『夏の夜は三たび微笑む』に見るとおり。
 
 スウェーデンの秘境にある古い共同体の夏至祭に招かれたアメリカの大学生たち。
 はじめのうちは、美しくのどかな風景の中、素朴な村人との交流や珍しい風習を楽しんでいた。
 が、明るい光に満ちた神聖な祭りが始まるや、様子がおかしいことに気づく。
 一人、また一人、学生たちの姿は消えていく・・・・
 
 尋常でないグロと狂気に、ルカ・グァダニーノ監督の怪作『サスペリア』を想起した。
 が、あちらが「暗」「闇」だとすると、こちらは「明」「光」。
 白夜の明るさ、緑あふれる美しい村落、近代以前の簡素な暮らしぶり、白い衣装を身に着けた村人たちの清潔で敬虔なふるまい・・・・一見、楽園かと思えるような共同体だけに、一皮むいた真実の姿が恐ろしい。
 なにより怖いのは、ここにはまったく悪意がない。
 描かれるのはグロと狂気なのに、映像はあくまで美しい。
 犠牲者にとっての悲劇が、村人たちにとっては真面目なお祭り。
 このアンバランスがなんとも奇妙な味わいをもたらす。
 夜9時を過ぎても明るい白夜さながらに。

 ヴィスコンティ監督『ベニスに死す』で永遠の美少年タッジオに扮し、老いていく者(ダーク・ボガード)の無惨を観る者に突きつけたビョルン・アンドレセンが、半世紀を経た今、衝撃の老いの始末を見せてくれる。
 感慨深い。 

 141分が短く感じられた。
 アリ・アスターは才能ある監督には間違いない。


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スウェーデンの夏至祭風景
endlessboggieによるPixabayからの画像

 

おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損