1961年パレスフィルム・プロダクション
108分、白黒
東京駅八重洲口から徒歩10分のところにある国立映画アーカイブで、現在、大島渚展および監督作品45本の上映会をやっている。
没後10年。
1958年の芥川賞を獲った『飼育』は好きな小説なので、観るのを楽しみにしていたのだが、期待していたのとはかなり様相が違った。
ソルティの中で原作は、日本の山奥の村の自然と土俗性、捕えた黒人兵を飼育する喜びに打ち震える少年の眼差しとが、生々しくも鮮やかなイメージとして残っている。
どことなく性的な匂いもした。
つまり、一人の少年の他者との出会い、世界との邂逅を描いた小説と理解した。
しかるに、大島の『飼育』のテーマはそこにはなかった。
黒人兵を捕虜にしたことがきっかけとなって暴かれる姑息因循たる日本の村の奇態ぶり、大日本帝国下の日本の民衆のどうしようもない愚かさと醜さ――それが徹頭徹尾、容赦なく、描きだされる。
その意味で、『戦場のメリークリスマス』同様、論より“しきたり”を、個より集団を重視し、罪より恥を恐れ、事なかれ主義と忘却を得意とする日本人の宿痾を描いた作品と言える。
増村保造監督、若尾文子主演の『清作の妻』にテーマとしては近い。
大島監督、ほんとに国家権力や集団圧力が嫌いだったんだなあ~。
もはや、大江の『飼育』とはまったく別の作品と言ってもいいくらいであるけれど、これはこれで、壮絶にして迫力に満ちた、たいへん熱量の高い作品である。
三國連太郎、加藤嘉、戸浦六宏の演技が光っている。
大島監督と言えば、90年にパーティー会場で起こした野坂昭如との喧嘩騒ぎが思い出される。
かつて熱い時代があり、熱い男たちがいた。
70年安保敗退とあさま山荘事件を機に、日本人は急速に熱さを失っていた。
政治的であることを忌避するようになった。
大島監督の映画を観るたびに、自らの冷感症を叱咤されているような気分になる。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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