2021年KADOKAWA
令和現在のホームレスの現状(主に東京の)はどんなもんだろう?
――と思って読んでみた。
著者の國友は1992年栃木県生まれのフリーライター。『ルポ西成 75日間ドヤ街生活』という既刊本がある。
國友が約2ヶ月間ホームレスとして過ごしたのは、東京都庁下、新宿駅西口地下、上野駅前、上野公園、隅田川高架下、荒川河川敷の6箇所。
いずれもホームレスのメッカである。
欲を言えばネットカフェも入れてほしかった。
「ホームレス=悲惨、飢餓、凍死、貧困、無職、失業者、転落者、福祉の欠如・・・」といった前世紀からの紋切り型イメージがソルティの中にもあるわけだが、本書を読む限りでは、ずいぶんと状況は変わったようだ。
まず、東京のホームレスは食い物には困らない。
飲食店やコンビニから出る大量のゴミがあるから、ではない。
毎日のように都心のどこかで、NPOや宗教関係者による炊き出しが行われているからである。
國友も先輩ホームレスに連れられて一日七食の炊き出し巡りをし、さすがに腹が苦しくなったと書いている。
肥満や糖尿病のホームレスも少なくないようだ。
次に、東京のホームレスにとって凍死の心配はない。
つらいのは冬より夏だという。
つらいのは冬より夏だという。
毎年寒くなると、やはりボランティアたちが毛布や寝袋を配ってくれるからだ。
それと段ボールを組み合わせることで、寒さはしのげる。
92年生まれの著者は実感ないだろうが、そもそも温暖化の影響で日本の冬は暖かくなった。
昔は関東圏でも10月にはコタツを出したものである。
昔は関東圏でも10月にはコタツを出したものである。
また、ひと昔前に比べると、生活保護がもらいやすくなった。
かつては、行政窓口でのシャットアウト攻勢が、越え難き関所のように語られていた。
が、2008年のリーマンショック後は対応が変わってきたとのこと。
著者が書いているように、行政書士や弁護士が申請者本人に同行することが増えたということもあろう。
が、ソルティ思うに、2009年8月に民主党政権に切り替わり、ホームレスや低所得者への対策が一気に進んだことが大きかったのではないか。
が、ソルティ思うに、2009年8月に民主党政権に切り替わり、ホームレスや低所得者への対策が一気に進んだことが大きかったのではないか。
むろん、2011年3月には東日本大震災があり、被災者対策は急務であった。
2015年施行の生活困窮者自立支援法は、民主党政権下に提出されたものだ。
自己責任を唱える自民党や石原慎太郎都知事の下では、まったく進む気配がなかった。
公共スペースにおける悪名高きホームレス“排除アート”も、石原都知事時代に登場した覚えがある。
本書にはそうした政治的背景への言及が欠けているのがいささか残念ではあるが、好奇心と諧謔精神に満ち、偏見から自由な著者の筆致は、冒険小説でも読んでいるようで楽しい。
令和現在、ホームレスの人がNPOの力を借りて生活保護を受け、無料低額宿泊所に入所し、就労やアパート暮らしを目指すことは不可能ではない。
その意味では、いま残っているホームレスの多くは、本書で著者が交流をもったような「自発的ホームレス」なのかもしれない。
そこには、「行政のお世話になりたくない」、「生活保護なんてプライドが許さない」、「家賃を払う金があったら酒や賭け事に使いたい」、「更生施設での集団生活や管理される生活が苦手」、「貧困ビジネスに引っかかってトラウマになった」、「そもそも鬱やなんらかの精神障害やなんらかの依存症があって他人とのコミュニケーションや社会生活が困難」・・・・といった様々な理由があるのだろう。
本書で著者が親しくなってホームレス道を教わった、You Tuber志望の「黒綿棒」や児童養護施設で育った「ター坊」など、言動を見る限りでは精神障害の印象を受けた。
また、上野公園のトイレで、仲の良い男と心中した女装姿のホームレスの話もあったが、セクシュアルマイノリティの比率も高いと思う。
四国遍路していたときに出会った80代の男は、退職後に家を処分してホームレスとなり、それから四国を回り続けていると言っていた。
いわゆる乞食遍路と違うのは、彼には預金口座もあれば年金もあること。
基本は野宿して、数日に一回は宿に泊まり、体を洗い、洗濯している。
月にいくら貰っているか聞かなかったが、年金が余るくらいで十分回れるという。
たしかに、食べ物や宿など、土地の人にお接待されることも多い。
住所がないと年金受けとれないんじゃないのかと尋ねたら、「年に一回、年金事務所に顔を出しておけば大丈夫」と言う。(本書に書いてある“現況届け”のことだ)
四国の大自然と親切な土地の人々とお大師様の見守りの中、毎日何万歩も歩いているおかげで、健康この上なし。70歳くらいに見えた。
野垂れ死ぬなら遍路の上。
こういう老後、こういう最期も悪くないなあ~と思った。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損