1971年創造者、ATG
123分、カラー

 大島渚目当ての国立映画アーカイブ通いも3回目。
 今回は18:50からの上映だった。
 夜の銀座は久しぶり。
 早めに着いて、アーカイブそばの舗道のベンチでチョコクロを食べながら読書していたら、勤めを終えたビジネスパースンたちが足早に通り過ぎていった。
 なんか自分、もう定年した気分。

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 『儀式』は大島監督の作品の中で、『青春残酷物語』や『日本の夜と霧』とならび評価が高い。
 キネ旬1位をとっている。
 家父長制共同体の象徴である地方旧家の乱脈なる血縁関係、冠婚葬祭の儀式のたびに集う成員それぞれの葛藤や衝突を通して、日本の戦後史そのものを描いた傑作という触れ込み。
 『犬神家の一族』以上の複雑な人間関係が繰り広げられているらしいので、あらかじめ登場人物表とキャストを頭に入れて臨んだ。

 まず、カラーであることに意外な感をもった。
 71年ならカラーでも全然おかしくないのだが、なぜか白黒だと思っていた。
 ポスター(上記)のせいだろうか?

 次に、やはり人間関係が分かりづらい。
 一回観て、ジェノグラム(家族関係図)が書ける人がいるとは思われない。
 誰と誰が親子で、誰と誰が兄弟で、誰と誰が一緒に暮らしているのか、よく分からない。
 それを観客に説明する気も初めからないようで、観る者は各自が想像で補うしかない。
 せいぜいが、家長たる桜田一臣(佐藤慶)と妻しづ(乙羽信子)を中心とする戦前の世代、一臣の息子たちで戦争に取られた世代(戸浦六宏、小松方正、渡辺文雄)、幼少の頃の戦争記憶をわずかにもつ主人公・満州男(河原崎健三)や従妹である律子(賀来敦子)の世代――戦前・戦中・戦後の3世代が登場して、それぞれの時代のカラーの違いが知られるばかり。

 一族内で自殺があったり、殺人があったり、事故死があったり、結婚式の日に花嫁が逃亡したりと、『犬神家』ばりにいろいろな事件は起こるのだが、その背景や動機や真相はしかと語られず、なんだかよく分からないストーリー。
 セリフも全共闘のアジビラのように、あるいは不条理劇のように、“芝居”がかっていて不自然さが目立つ。
 全編を支配する異様な緊張感と、姑息因循たる家父長制や建前重視の日本的形式主義を揶揄するブラックユーモアはさすが大島である。

 正直、とても大衆的人気を博するとは思えず、キネ旬1位は不思議としか言いようがない。
 当時、こういった小難しくて高踏的な装いの映画が人気を集めたのだろうか。
 いまの若者だと20分と持つまい。(それだけ日本人が古いイエ制度から解き放たれたということか)
  
 家長を演じる佐藤慶の傲岸不遜ぶり、乙羽信子の底意地悪そうな佇まい、そして青年(中村敦夫)の筆おろし(成人儀式)をご指南する小山明子の色っぽさが、印象に残った。


 

おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損