2012年東映配給
130分

 『どついたるねん』、『』、『闇の子供たち』の阪本順治監督の名前に釣られて借りたのだが、吉永小百合主演という点に一抹の不安があった。
 結果から言えば、不安が当たってしまった。
 阪本監督にして、“小百合マジック”を打ち壊せなかった。
 すべてを小百合色に染め上げ、お涙頂戴の美しいお姫様物語に変えてしまう“小百合マジック”。
 恐るべし。

 もっとも、本作は日本アカデミー賞の12部門で優秀賞をとるなど、評価は高い。
 音楽、撮影、照明では最優秀賞をとっている。
 役者では特に、吉永小百合と森山未來が数々の賞をもらっている。
 これを駄作と感じるソルティのほうが一般から離れているのかもしれない。
 
 森山未來以外にも、満島ひかり、勝地涼、宮﨑あおい、小池栄子、松田龍平、仲村トオル、柴田恭兵、石橋蓮司、里見浩太朗と、華も実力もある俳優陣をこれだけ揃えているのに、各役者たちはそれぞれが役を理解してリアリティある演技をしようと頑張っているのに、そのすべての努力が、吉永小百合ひとりの存在によってメルヘンに収斂されていく酷さ。
 吉永小百合演じる小学校の元先生と森山ら若手役者6人が演じる元生徒たちが、白雪姫と6人の小人たちに見えてくるファンシー感。
 リアリティのない、はじめにプロットありきの脚本(原作は湊かなえの『二十年後の宿題』)にも問題はあると思うが、やっぱり、脚本も演出も撮影も音楽も照明も他の役者の演技も、すべてが小百合に引きずられてしまったのが一番の原因であろう。
 本作の前に、NHK制作の最も新しい『犬神家の一族』を録画していたのを観た。
 犬神松子役の大竹しのぶ、犬神竹子役の南果歩、両女優の圧巻の演技を堪能したあとだったので、なおさら、小百合の演技の数十年変わらぬスタイリッシュな浅さが悲しかった。  
 
 『キューポラのある街』、『伊豆の踊子』、『あゝひめゆりの塔』など日活時代の小百合は、可愛いだけでなく、溌剌として人間的魅力にあふれている。
 どのあたりからマジックの世界に住むようになったのか。
 気になるテーマではあるけれど、それを追っていくとソルティもまたマジックにかかってしまいそうだ。
 日活の小百合だけで止めておこう。

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Christine DAUTINによるPixabayからの画像



おすすめ度 :


★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損