2022年インド
179分
テルグ語、英語

 封切り作品を映画館で観たのは久しぶり。
 これは映画館で観て正解だった。
 3時間の長尺がまったく苦にならない、1900円の料金も全然高いと思わない、ノンストップの強烈エンターテインメント。
 最初から最後まで、これほど頭をカラっぽにして純粋に楽しめた映画は、『スターウォーズ』か『レイダース/失われたアーク』以来かもしれない。

 ときは20世紀初頭、ところはインド。
 大英帝国の植民地にされ、民衆は圧政に苦しんでいた。
 森に狩りに来たインド総督スコット・バクストン夫妻に幼い妹を連れ去られたビーム(=N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)は、妹を取り戻し総督に復讐するため、村の仲間と共にデリーに向かった。
 一方、幼い頃から英国軍と闘うための戦士として育てられたラーマ(=ラーム・チャラン)は、大量の銃を手に入れるため、デリーの警察官となり、総督府の武器庫に侵入する機会をうかがっていた。
 無敵の強さと不死身の肉体を誇る二人は、ひょんなことから知り合い、大親友となる。
 しかし、ラーマは、総督の命を狙う正体不明の男(実はビーム)の捕獲を命じられていた。

 メインテーマは、男の熱き友情。
 背景を成すのは、「打倒英国、インド独立!」の愛国心昂揚ドラマと、奇想天外でダイナミックな戦闘シーンの数々。
 もちろん、2人のヒーローには相思相愛の可憐な美女がいて・・・のメロドラマ要素。
 家族愛で観客の涙を絞るのも忘れない。 
 とびきり愉快なゲスト出演は、インドの森からやって来た猛獣たち――虎、豹、馬、鹿、毒蛇。
 最後に、インド人の魂たるヒンズー神話『マハーバーラタ』を重ね合わせ、インド映画と言えば無くてはならないゴージャスでカラフルで軽快至極な歌と踊りで盛り立てる。
 この満艦飾というか、満漢全席というか、大満貫というか、すなわち、ザ・インド!
 ボリウッドの勢いの凄さをまざまざと知る。

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 「ああ、この映画をインドの映画館で観たかった」と何度思ったことか!
 そう、ソルティは二十歳の頃(80年代初頭)、インドを旅したときカルカッタの映画館に入った。
 飲酒の誘惑とたたかう中年男の話で、それほど面白くはなかった。(むろん、言葉は分からなかった)
 それでも、観客たちの熱かったこと!
 ちょっとした場面での拍手喝采や野次は当たり前。
 スクリーン(の俳優たち)に向かって、舌を打つわ、説教するわ、警告するわ、叫ぶわ、怒鳴るわ、大笑いするわ、かと思えば、鼻をすするわ、嗚咽するわ、しまいには立ち上がって近くの席の者と何か言い争いするわ・・・・。
 映画そのものより観客のほうが数倍面白かった。
 日本の観客の礼儀正しさとは雲泥の差。(どっちが雲でどっちが泥かは知らない)
 インド人が今もまだあの頃と変わらないのであれば、本作を観た彼らの反応は想像に余りある。

 さらに、本作を観たイギリス人の反応も知りたい。
 これだけ英国およびイギリス人を悪者に仕立てた作品が、はたしてイギリスでどう評価されたのか、イギリス人はどんな感想を持ったのか、気になるところである。
 ただし、悪役のスコット・バクストン総督を演じたレイ・スティーヴンソン(本作封切りの翌年に58歳で亡くなった)、及び総督夫人キャサリンを演じたアリソン・ドゥーディは、敵役としてキャラが立っており、風格ある素晴らしい演技である。
 敵が憎々しげで強大であるほどに、ヒーローがヒーローたり得て、観客の共感を呼ぶのである。

 それにつけても、前々から不思議に思っていたのだが、インド映画の主役を張る人気男優は中年ばかり。
 本作の2人の主役N・T・ラーマ・ラオ・ジュニアとラーム・チャランも、40歳近い。
 鍛え上げてはいるけれど、どうしたって中年にしか見えない太い腰と濃い顔立ちの髭面の男が、左右並んで仲良くダンスを踊るシーンは、本邦のジャリタレや韓国のK-POPイケメンアイドル、そして日本風“チョイ悪親爺”を、一瞬にして場外に吹き飛ばす強烈なインパクトと重量感がある。
 アクの強さこそ、男の意気地ってか?

 客席は満席であった。
 今年、満員の劇場で映画を見たのは、『愛のコリーダ』に次いで2度目。

ガンガー
「ガンジスの水を飲んだ者は必ず再びインドの大地を踏む」と言う。
ソルティもまた行く機会があるのだろうか?





おすすめ度 :★★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損