根津美術館は南青山(渋谷区)にある。
 ブティックや高級レストランが立ちならぶ気取った(鼻持ちならない)界隈である。
 ソルティはずっと千代田線の根津駅(文京区)近辺にあるものと思っていた。
 紛らわしいが、根津美術館の根津は地名ではなく、創設者である根津嘉一郎(1860-1940)の名前から来ているのであった。
 ここを訪れるのは初めて。
 目的はお地蔵さまである。

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表参道駅からの道

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根津美術館

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1Fホールに並んだ古代アジアの仏像たち
右端は3世紀ガンダーラ地方でつくられた弥勒菩薩像

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正面より
ギリシア彫刻の影響が見られる

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今展のポスター

 お地蔵さま(地蔵菩薩)は庶民にとって最も身近で親しみやすい仏である。
 お釈迦さまが亡くなって1500年後に末法の世が到来し、正法は失われた。
 日本では平安末期の1052年がそれに当たる。 
 以後、56億7千万年後に弥勒菩薩が出現するまで、修行も悟りも不可能。
 さあて、困った。
 我々は永遠に六道輪廻するほかないのか?
 でも大丈夫。
 その間に娑婆世界に降りてきて、六道にいるあらゆる生命を救済してくれるのがお地蔵さまである。
 なので、お地蔵さまの仏画や仏像が盛んに作られ、広く信仰されるようになったのは、平安後期からなのである。
 今回の特別展は、日本における地蔵信仰の歴史を、書写された経典や絵巻物や仏画や仏像によってたどる試みである。
 とくに平安時代末期から鎌倉・室町時代につくられた地蔵菩薩の絵や彫像が目玉である。

 展示室は撮影禁止なので残念ながらここに紹介できないが、いくつかの彫像の美しさに心打たれた。
 お地蔵さまと言えば、風雨に打たれ摩滅し顔立ちもはっきりしない道ばたの石像のイメージが強いので、こんなに美しい地蔵像があるとは思わなかった!
 平安時代末(1147年)に作られた木造彩色の地蔵菩薩立像(ポスターの下半分)などは、興福寺の阿修羅像や法隆寺の百済観音に匹敵するほどの優美さ、高貴さ、慈しみ深さを湛えていて、これを観れただけでも性に合わない青山まで足を運んで良かった。

 1~2Fで6つある展示室をめぐったあとは、根津美術館ご自慢の日本庭園を見学。

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17,000㎡を超える広さをもつ

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ところどころに置かれた仏像がなかなか愉快

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都会の真ん中にこんな緑豊かな空間があるとは・・・


 ところで、末法思想は大乗仏教において花開いた(?)信仰なので、初期仏教の流れを汲むテーラワーダ仏教(卑称:小乗仏教)に「末法」という概念はなく、地蔵菩薩も存在しない。
 お釈迦さまの説いた法(ダルマ)はいまもちゃんと残っており、修行も悟りも可能である。

六地蔵
秩父の町中で見かけた六地蔵