2021年原著刊行
2022年創元推理文庫(訳・山田蘭)

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 ホロヴィッツ7冊目、カテを立てた。
 元刑事のへんくつ探偵ダニエル・ホーソーンと、著者であるホロヴィッツ自身がタッグを組んで事件解決に当たるシリーズ3作目。
 あいかわらず、語り口が巧みで、ストーリー運びも見事で、読み始めたら止まらない。
 探偵小説愛好家の関心&感心のツボをよく心得ている。
 孤島で起きる連続殺人という基本設定だけで、すでにワクワクしてくるではないか。
 しかも、島の地図入りである。
 真相から目をそらさせる撒き餌も十分用意しつつ、いったん真相がわかってみれば、そこに至る伏線もしっかり読者の前に供されていた、という心憎いばかりのテクニック。
 この調子で書きつづけていったら、クイーンやクリスティと同じ殿堂に手形を残すことになるのではなかろうか。

 ただ、個人的には、本作におけるホーソーンの推理は前2作にくらべ、いささか頼りない気がした。
 論理の積み重ねというよりは、漠とした状況証拠の組み合わせによる、いわば“当てずっぽう”のような推理であって、読者を納得させるには弱いように思った。
 少なくともソルティはすっきりしないものがあった。

 あるいは、これは真犯人解明シーンにおける叙述の問題なのかもしれない。
 一つの部屋に集めた関係者一同を前に、探偵が滔々と推理を披露し、次々と容疑者を俎上に乗せていっては論理をもってこれを棄却し、最後の最後に真犯人を名指しする――というのが、黄金時代の定番「犯人はお前だ!」スタイル。
 探偵とともに一から事件を振り返り、散りばめられた手がかりや伏線がこれまで気づかなかった視点のもとに配列され意味をなし、すべてのピースが埋まってパズルの絵が完成していく、その快感に浸ることができてこそ、読者は探偵と著者の前にひれ伏すのである。
 謎解きのシーンのスリルと迫力こそ探偵小説の真骨頂、迷探偵を名探偵に変えるエッセンス。

 現代では、この「犯人はお前だ!」スタイルは難しい。 
 それに代わる名探偵の推理の見せ場をどうつくるかが、作家の腕の見せどころとなるわけだが、本作はそこが弱いように思う。

探偵

 最後に――。
 このシリーズがこの先続いていくためには、主人公ホーソーンのキャラの魅力が重要なのは言うまでもない。
 が、今のままだとちょっと不安。
 へんくつは全然かまわないが、どこかに愛すべきところがないと早晩読者に飽きられてしまうのではないか。
 ワトスン役をつとめるホロヴィッツとの関係も、今のままではあまりにドライかつ“知的カースト”的で、読んでいて不愉快すれすれである。
 次作でのキャラ掘り下げと関係改善に期待。

 
 
 
おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損