1930年原著刊行
1994年国書刊行会(訳・西崎憲)
『毒入りチョコレート事件』と並ぶバークリーの代表作。
これほどの傑作があったとは・・・。
本格ミステリーにはまった10~20代の頃に邦訳されていたら、どれだけの衝撃をもって読み、熱狂したことだろう?
残念至極。
『毒入り』でも証明されている通り、この作家の特徴は、凝った構成と緻密なプロット、そしてキャラクター描き分けの妙にあるようだ。
中心となる2つの大きなトリック――叙述トリックおよび偽装トリック――も興味深く感嘆すべきものだが、登場人物ひとりひとりの性格描写や人間関係における心理の綾が読みどころになっている。
それはまさに、ジェイン・オースチン、チャールズ・ディケンズ、ヘンリー・ジェイムズ、P.G.ウッドハウスなど英国の国民的作家によって受け継がれてきたお国の文学的伝統である。
本作の主人公かつ書き手であるシリル・ピンカートンと、すったもんだの果てに彼と結婚することになるアーモレルのやりとりなどは、ここが殺人事件の舞台で、2人ともに容疑者だというのに、実に愉快で楽しませてくれる。
不器用で鈍感なやさ男が、頭が切れて肝っ玉の据わった女子に振り回されるというユーモラスなジェンダーギャップ騒動は、P.G.ウッドハウス作の執事ジーヴズ・シリーズを彷彿とさせる。
だいたいがバークリーは女性を見る目が冷徹。あるいは客観的。
もしかしたらゲイだったのかなあ~。
推理小説を読むときの鉄則だが、解説を先に読んではならない。
解説ページを開いてもならない。
ソルティは本編を読む前に、何の気なしに解説ページをパラパラめくって、たまたま眼に入ったわずかな語句によって、この作品の真犯人が分かってしまった。
なんてことだ!
文章を読まなくても、古今東西のミステリーに精通した勘のいい読者であれば、ほんのちょっとした語句から真相を察してしまえるのだ。
常々思うのだが、ミステリーに解説は要らない。
せいぜい著者のプロフィールと他の作品リストくらいで十分だ。
本作においてもっともアンフェアなのは、解説を書いた真田啓介と、上がってきた原稿に異を唱えなかった編集者である。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
