1953年第1部、第2部
1954年第3部
松竹
計6時間11分、白黒
原作 菊田一夫
音楽 古関裕而

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 1952年にラジオドラマとして放送された時、「女湯がカラになった」という伝説をもつ昭和時代の鉄板メロドラマである。
 しかし、いまこの煽り文句を若い人に理解してもらうためには、前提としていくつかの説明が必要となろう。
  1. 新海誠のアニメ映画とはまったくの別物である。
  2. 当時風呂のない家が多く、庶民は銭湯を利用していた。(1963年時点で浴室普及率は6割弱)
  3. 一回きりの生放送(毎週木曜20:30~21:00)で聴き逃すとあとがなかった。
  4. もちろん、録音・再生機器もなかった。
 「女湯がカラ」は大げさかもしれないが、関東地区の聴取率が59%だったというから、女性たちは開始時刻が近づくと手拭いやハンカチを手にラジオの前に陣取り、『忘却とは‥‥』の名文句と共に始まるテーマ曲を固唾をのんで待っていたのは確かだろう。 
 もちろん、岸恵子、佐田啓二主演の映画3部作も大ヒットした。

 この作品は未見と思っていたが、観始めてみると、記憶にあるシーンがところどころあった。
 どうも20代の頃に総集編をVHSビデオで観ていたようだ。
 で、そのときの感想も一緒に想い出した。
 「ヒロインの氏家真知子って気持ち悪い女だなあ」というものである。
 ソルティが観た1980年代の時点で、すでにこの作品のヒロイン像はうんざりするほど時代遅れで、観ていてイライラが募るものだった。
  • とにかくすぐに泣く。泣けば済むと思っているかのよう。
  • 男の前で思わせぶりな態度ばかり取る。すぐに目を伏せ、しなを作る。
  • はっきりと意志表示しない。
  • そのくせ後先考えず衝動的に行動し、事態をややこしくする。
  • 恋だけが生きがいで、いつも不幸そうな顔している。
  • その名の通り、ウジウジして待つばかりの女――氏家真知子。
 当時の女性視聴者はこんな女に自己投影でき共感できたのか・・・・。
 女性というジェンダーの一般型が、戦後30年ですっかり変わったことを実感したのだった。
 さらに公開から70年後の現在、ソルティは、この映画を20~60代の女性たちが集う中に投下して、どんなコメントが寄せられるか見てみたいという欲求にかられる。
 おそらく炎上必死、真知子はバッシングの嵐に遭うだろう。
 あるいは、ツッコミどころ満載の珍品として、ネット民にしばしの娯楽を提供するかもしれない。

 むろん、真知子を演じた岸恵子に非はない。
 これが出世作となった岸恵子は、美しく、エレガントで、演技も上手い。
 まだ二十歳を過ぎたばかりというのにすでに少女らしさは微塵もなく、恋やつれが似合う大人の女性として存在感を放っている。
 だが、この役ほど素顔の岸恵子とかけ離れたものもあるまい。
 その後の岸のたどった恋愛遍歴や女優人生を思うに、とくにイブ・シャンピ監督との結婚からのフランス移住という大英断を思うに、氏家真知子と岸恵子はほとんど真逆の性格と言っていいのではないか。
 もしかしたら、岸は、「真知子ってなんて馬鹿で嫌な女なのかしら? 私だったら、好きになった男を半年も待たない。姑に虐められて、そのまま泣き寝入りなんかしない。」と思いながら、ヒロインを演じていたのかもしれない。

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主演の2人。佐田啓二と岸恵子
岸のストールの使い方が「真知子巻き」と命名され、流行した。


 以下、思いつくままに。
  • 笠智衆が退役軍人役で出ている! あいかわらず芝居は下手くそ。吉永小百合や石原裕次郎同様、「なにをやっても〇〇〇〇」の一人である。が、池の辺りでの悪役との組んずほぐれつの大立回りは新鮮で愉快。
  • 米兵の子を孕んでしまったパンパン女性が登場。混血差別、パンパン差別など、当時の世相がうかがえる。
  • 第2部の北海道シーンでアイヌ民族が登場する。後宮春樹(佐田啓二)に片思いするアイヌ娘に、石原裕次郎夫人だった北原三枝が扮している。恋に燃えて身を滅ぼす情熱的なキャラは、アイヌというよりカルメンのよう。
  • 挿入歌『黒百合の歌』(作詞:菊田一夫 作曲:古関裕而 歌唱:織井茂子)の歌詞に出てくる「ニシパ」とは、アイヌ語で「金持ち、紳士」といった意味。小さい頃からテレビの懐メロ番組でこの歌を聴いていて、「ニシパってなに?」と思っていた。謎が解けた。
  • 氏家真知子をいじめる姑・浜口徳枝を演じているのは市川春代という女優。印象に残る好演。50年代当時は全女性から相当憎まれたと思う。TVドラマ『羅刹の家』の山本陽子を思わせる気持ちいいイビリぶり。
  • 真知子の友人・綾を演じる淡島千景。姉御肌で情の篤いお節介焼きという役どころで、物語の狂言回しとなる。淡島はこういう役が上手い。
  • 劇中のセリフで感銘を受けたもの。「お互いに過去を聞かないのが、この時代の礼儀かもしれません」

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左から、佐田啓二、野添ひとみ、小林トシ子、笠智衆



おすすめ度 :★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損