1962年日活
80分

 ハイソな未亡人役に高峰三枝子、その一人娘が吉永小百合という、老いも若きも街中の男たちが花束片手に押しかけそうな母子家庭の話。
 赤い蕾は吉永小百合、白い花は高峰三枝子のことである。
 関川夏央著『昭和が明るかった頃』によれば、西河克己監督が駆け出しの頃に初めて会って、「この世のものと思われない美しさ」にメロメロになった憧れの大女優・高峰三枝子に出演を乞うて実現したという。
 西河にとってのヒロインは、小百合より三枝子だったのだ。

 たしかに、高峰三枝子は美しい。
 公開時44歳。服飾学院の院長というキャラ設定もあって、ファッショナブルでエレガントな洋服や上品で高価そうな着物を完璧に着こなして、山の手マダムの典型といった風情。
 「元祖歌う女優」と言われ『湖畔の宿』始め数々のヒットを飛ばしただけあって、声や話し方も魅力的である。
 劇中では歌声を披露してくれる。
 『女の園』(1954)の鬼舎監や『犬神家の一族』(1976)の真犯人松子の演技が素晴らしいので、どうしても「気の強いコワい女」というイメージが先立つのだが、この人の清楚でノーブルな良さが引き出された作品に『按摩と女』(1938)がある。
 出世作となった『暖流』(1939)、得意の歌を生かした『情熱のルムバ』(1950)などの音楽映画シリーズなど、若い頃の作品をもっと観たいものだ。

白いフリージア

 一方の吉永小百合。
 前作の『キューポラのある街』の成功に乗じてか、ここでも活発で勇ましい女学生を演じている。 
 ボーイフレンド(もちろん浜田光夫である)に自分からキスを求めたり、家出につき合わせて一緒にサカサクラゲもとい連れ込み旅館に泊まったり、駅まで駆けっくらしてみたり、戦後の男女平等精神を身につけた元気で明るい美少女である。
 こういう女性像は、戦前生まれの人にとっては新鮮で眩しかっただろうなあ~。

 もっとも、そこはあくまで「清く正しく美しく」の日活青春路線。
 キスは唇ではなく額やほっぺに、連れ込み旅館では机を借りて二人で猛勉強したあと布団を離して寝る、といった具合。
 なんかどっかで見たようなシチュエーションだなあと思ったが、ずばり、ソルティが小中学生の頃(70年代)に妹やクラスメイトの女子に借りて読んだ少女漫画のノリなのだ。
 ヒロインが菓子を頬張りながら電話に出るとか、ボーイフレンドと駅まで(あるいは学校まで)駆けっくらするとか、ボーイフレンドが「こいつゥ、しょってやがる」とか言いながら人差し指でヒロインの額をつつくとか、飼っている犬が食卓で粗相して大騒ぎとか・・・・。
 「なんつうベタな展開だろう」と連打される紋切り型にあきれたが、途中で、「ああ、そうか!」と気づいた。
 この作品が少女漫画チックなのではない。逆なのだ。
 70年代少女漫画の原点が、60年代日活青春純愛映画なのだ。
 70年代にデビューした少女漫画家たちは、小百合&光夫の青春純愛映画を観て育ち、キラキラしたその世界に憧れ、純愛カップルの日常的振る舞いの型を映画から学びとったのだろう。
 してみると、吉永小百合こそが、バックに花を背負った瞳きらきらヒロインの最高にして最良のモデルだったのかもしれない。 
 ヒロイン少女の優しくおシャレなママは高峰三枝子がモデル、というのもありだ。
 ただ、少女漫画でヒロインが憧れるボーイフレンドは、浜田光夫タイプの気の置けない幼馴染の同級生よりは、『エースをねらえ!』の藤堂貴之のようなスポーツ万能の先輩であるほうが多かった。
 ここは浜田光夫脱落である。

赤い蕾

 高峰三枝子+吉永小百合のビューティ母子家庭と一対になるのが、金子信雄+浜田光夫の三枚目父子家庭。
 金子信雄と言えば、テレビ朝日系列で放送されていた『金子信雄の楽しい夕食』(1987-1995)が記憶に残る。
 金子は料理が得意だった。
 料理番組なのに、いまでは放映できないくらいのパワハラ・セクハラ親爺トーク炸裂で、アシスタントの女性泣かせで有名だった。
 初代アシスタントを務めた東ちづるだけは、どこで身に着けたのか絶妙な親爺あしらいを見せ、金子に気に入れられ、業界内で株を上げ、その後のビートたけし司会番組のアシスタントに抜擢されるきっかけをつくった。
 これも『昭和が明るかった頃』に書かれていたことだが、金子信雄は高峰三枝子との初共演に際し、緊張して手が震えてセリフもままならなかったという。
 昭和の典型的パワハラ親爺のイメージが強い金子信雄にもそんな一面があったのだ。
 
 本作中、金子が足を捻挫した高峰を「お姫様だっこ」するシーンがある。
 金子は力持ちじゃなさそうだし、高峰は軽そうには見えない。
 国民的大女優を落としたらそれこそ大変。
 金子がどれだけ緊張したことか、想像すると楽しい。
 東ちづるの横で包丁を握っているほうが何倍も楽だったろう。

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左から、浜田光夫、吉永小百合、金子信雄、高峰三枝子 





おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損