ルゼルオケ

日時: 2023年7月9日(日)13:30~
会場: なかのZERO 大ホール
曲目:
  • ワーグナー: 歌劇『タンホイザー』序曲
  • R.シュトラウス: オーボエ協奏曲 ニ長調 
  • チャイコフスキー: 交響曲第4番 へ短調
  • アンコール ワーグナー: 歌劇『ローエングリン』より エルザの大聖堂への行進
オーボエ: 最上 峰行
指揮: 和田 一樹

 「タンホイザー」序曲くらいカッコよくて血沸き肉躍る曲はそうそうないと思う。
 それを「つかみはバッチリ」の我らが和田一樹が一曲目に持ってくるのだから、会場が沸騰しないわけがない。
 一曲目にして「ブラボー」が放たれた。
 たしかに、メインプロ前の食欲増進を企図したアペリチフという位置づけに納まらない出来栄えだった。
 この序曲の中に、「タンホイザー」という聖と性をテーマとするオペラのドラマが凝縮されているわけだが、和田の指揮はそのドラマ性を十分に開示し、表現していたと思う。
 そろそろオペラに挑戦してもよいのでは?
 ぜひとも、『トロヴァトーレ』を振ってほしいなあ。
 
 オーボエ協奏曲ははじめて聴いた。
 モーツァルトを思わせるロココ風の典雅な曲で、華やいだ気分になった。
 ソルティは舞台向かって右側の前から4列目にいたので、指揮台の横に立つオーボエ奏者の姿がよく見えた。
 とにかく指の動きが凄かった。
 よく吊らないものだ。
 楽章に分かれていないので休みもなく、装飾符だらけの難しい曲を、いとも軽やかに鮮やかに奏しきった最上峰行の技術とスタミナに感嘆した。
 そして、ソリストを引き立てながらも、オケとの活気ある対話を作りあげて、シュトラウスの世界を作りあげていく和田の手腕に唸った。
 とくに、オーボエと他の木管との掛け合いが、森の中の鳥同士の会話のようで非常に愉しかった。
 コンチェルトとはこうでなければいけないと思うような名演。
 ときに、オーボエの響きには脳細胞を鍵盤で叩くような頭蓋骨浸透性がある。
 頭が疲れたときはオーボエを聴くといいんだなあと発見した。

オーボエと脳波
 
 今回、コンサートマスター(第1ヴァイオリンのトップ)をつとめる男性の演奏中の動きが激しくて、1曲目では気になって仕方なかった。(目をつむっていればいい話なんだけどね)
 このままだと、2曲目で主役のソリストより目立ってしまうんじゃないか、悪くするとソリストの集中を妨げやしないか、と他人事ながら心配になった。
 ところがどっこい、オーボエ奏者の動きもこれに負けず劣らずダイナミックで、相並んで揺れ動く中年男子2人の周囲には、あたかもボリウッド映画『RRR』の主役男優二人によるナトゥーダンスのような熱く濃い磁場が生じていた。
 さしもの和田一樹も薄く見えるほどで、大層面白かった。
 
 チャイコフスキーの4番は、迫力が凄かった。
 それはしかし、生きる力に満ちた意気軒高たるパワーではないように思った。
 絶望の底をついた人間が見せる、狂気すれすれ自棄っぱちの捨て身パワーである。
 「こんな曲を作る人は自殺しかねないなあ」と、つい思ってしまうような作曲者の不安定な精神状態を垣間見させる。
 実際、この曲はチャイコフスキーが結婚に失敗してモスクワ川で自殺をはかった直後に書かれたものだという。
 作曲という代償行為を通じて精神の危機を脱したのかもしれない。

 シュトラウスで舞い上がった気分が一気に突き落とされて、このまま終わるのはつらいなあと思っていたら、アンコール曲で見事に引き上げて癒してくれた。
 こういうサービス精神&バランス感覚もこの指揮者の才能の一つである。

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なかのZEROホール