1949年東宝
183分、白黒
過去5回映画化されたうち最初のもので、一番の傑作と名高い。
3度目の1963年日活版では、吉永小百合演じる女子高生・寺沢新子が主役で、英語教師役の芦川いづみは準主役であったが、本作の主役は明らかに教師役の原節子で、新子役の杉葉子は従に甘んじている。
同じ原作でほぼ同じ脚本なのに、監督の演出によって、あるいは女優のオーラによって、主従が入れ替わるのが面白い。
それくらい原節子のオーラは抜きん出ていて、あたかもカメラが自然と吸い寄せられちゃったという感じ。
美人と言うより麗人。
美人と言うより麗人。
こんな女教師が田舎町の学校にやって来たら、近隣一帯大騒ぎになるだろう。
戦前の封建的な気風が残る町で自由な恋愛(というより交際)をもとめる若い男女を描くという、今となっては笑い話のような古臭くてナンセンスなテーマにあって、原節子の輝ける美貌こそが時代を超越する本作一番の価値である。
「麗人」の称号に値する数少ない女優
他の役者では、芸者梅太郎を演じる木暮実千代がさすがの艶技で、原節子に継ぐ準主役の位置を占めている。着物姿がしっくり似合う。
新子の恋人役の池部良はこのとき31歳であったが、旧制高校生として違和感ない若々しいイケメンぶり。悲惨な南方戦線を生き抜いてきた池部の経歴を思うと、この無垢なる若さは驚き。
元気でおしゃまな眼鏡女子を演じる若山セツ子も面白い。この役、メガネっ子キャラ人気爆発の現代なら、主役を食うほどの存在となるかもしれない。
もっとも嬉しい出演は、町の長老役の高堂国典。素か演技か分からぬとぼけた味わいは、この役者ならではの芸風。こういうジジイ役者がいなくなった。
本作DVDはブックオフで発見した。
「原節子厳選傑作集」というタイトルで、小津安二郎監督の『晩春』、『麦秋』との3枚セットで1000円で売られていた。
『晩春』と『麦秋』のDVDはすでに持っていたので、『青い山脈』が観たいがために、いや『青い山脈』の原節子を観たいがために購入した。
「古臭くてナンセンス」と上に書いたけれど、現在日本の平和と民主主義の危機的状況にあって、「戦後民主主義を高らかに描いた」本作は、一周回ってリアルでビビッドなものとなっている。
焼け跡の中の日本人が、青空の下でサイクリングできる「平和」や、不条理と思ったことにNOと言って闘える「民主主義」をどれだけ喜んだかが、どれだけ貴いと思ったかが、本作を見ると深く感じとれる。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損