2023年新潮新書
四国八十八札所第57番・永福寺住職による「歩き遍路体験記」である。
映画にもなった『ボクは坊さん。』の著者で、1977年生まれとある。
2019年4月18日に第1番霊山寺をスタートし、8回の区切りうちで、2020年11月11日に第88番大窪寺を打って結願した。
総日数は65日。
平均40~50日と言われるから、かなりのゆっくりペースで回ったことが分かる。
やはり札所の僧侶だけあって、一つ一つのお寺の滞在時間が長い。
読経が丁寧だし、知り合いの住職との交流や情報交換もある。
顔を見知っているお遍路さんに呼び止められて記念撮影なんてこともしばしば。
ちなみにソルティの場合、別格札所20も含めて65日だった。(これでもゆっくり)
『ボクは坊さん。』を読んだ時も感じたが、この人のいいところは、自然体で等身大の自分を生きて表現しているところ。
変に悟り澄ましたり、説教臭かったり、善人ぶったり、強がったりというところがない。
空海の言葉を引用するなど真言宗僧侶らしい面はあるものの、全般に、はじめて四国遍路を体験する42歳(厄年だったのか!)の家族持ちの普通の男がここにいる。
札所の住職だからと言って、特別な奇跡が起こったり、空海上人が出現したり、納経の順番を融通してもらったり、地元民からより多くの“お接待”を受けたり・・・ということもなかったようである。
誰にでも平等――これが“お四国”のいいところであろう。
読んでいて、再び旅をしている気分になった。
同じルートをたどり、同じ景色を目にし、同じ宿に泊まり、同じ寺や神社にお参りし、同じような楽しさや辛さを体験するのであるから、遍路体験者は共感しやすいのである。
「ああ、自分も同じようなことがあった」という共鳴と、「ああ、自分の時とはずいぶん違っているなあ」という比較とが、体験者にとってみれば非常に楽しい作業なのだ。
白川の場合、まさに2020年初春からのコロナ禍に当たってしまったわけで、すべての納経所が3か月間閉鎖するわ、多くの宿が営業休止になるわ、外国人の姿が消えるわ、お接待にも神経を使うわ・・・・そもそもが“非日常”の遍路行がさらなる”非日常”に脅かされていく様子が伺えた。
遍路では、長い距離を移動し、丁寧に死者を悼み、聖なるものに祈りを捧げる。それはかつて人々が繰り返し行ってきたことである。そのことを「思い出す」ように取り戻すことで、人間性のバランスを再調整できるような功徳を感じ続けた。(「おわりに」より)
四国遍路していた時、愛媛県を打ち終える頃(60番前後)に淋しさがじわじわ押し寄せてきた。
「ああ、もうすぐ終わってしまう・・・・」
それと同じように、本書もページが残り少なくなるにつれ、読み終えるのが惜しい気分になった。
やっぱり、また行くことになるんだろうなあ~。
その時には57番で本書にサインをしてもらおうか。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損