2021年旬報社
ソルティが原発に反対する理由は至極単純で、「赤ん坊に出刃包丁を持たせてはいけない」からだ。
人類は、原発という危険極まりないものを扱うには、あまりに幼すぎる。
技術的にも、メンタルにおいても。
ロシア・ウクライナ戦争におけるサボリージャ原発の危険性を見れば、戦争をやめられない人類が原発を持ってはいけないのは、文字通り“火を見る”より明らかだ。
とりわけ、世界の地震の10%が集中する日本の場合、列島に原発を並べることは、体じゅうにダイナマイトをぶら下げた兵隊が敵陣に乗り込んでいくようなものであろう。
常識的に言っても、論理的に考えても、なによりかにより、2011年3月の福島第一原発臨界事故という建国史上最大の国家的危機を鑑みても、日本は原発をすぐさま止めるべきである。
いまソルティが、「コロナガー、酷暑ガー、自民党ガー」と愚痴をこぼしながらこうやって首都圏で無事に生活できているのも、あの日奇跡がいくつも重なり合って、福島第一原発が大爆発に至らなかったおかげである。
東日本壊滅の瀬戸際であったことは記録に残されている。
ソルティからして見ると、いまだに原発推進を口にする人たちは、日本人を始めとする人類が原発を(核廃棄物の管理含め)完全にコントロールできると思っている極楽とんぼで、かつ、原発の危険性を理解できない無知蒙昧の徒としか思えない。
「いや、我々は赤ん坊ではない、立派な大人だ。原発は出刃包丁でない、せいぜいペーパーナイフだ」とでも言うのだろうか。
あるいは、人間の不完全性も原発の危険性も知りながら、それでもなお原発を押し進めたいと言うのなら、それは敗けると分かっていた戦争に飛び込んで日本という国が滅亡する危機を招いた大日本帝国の指導者らとなんら変わりない。
広島と長崎の惨劇、第五福竜丸の悲劇、そして福島原発事故・・・・これでもまだ足りないと言うのか。
汚染され住めなくなった日本に、被爆により損なわれた肉体に、お金や地位や権力が何の役に立つ?
本書の著者・樋口英明は、元福井地裁の裁判長。
2014年5月21日に福井地方裁判所において大飯原発運転差止めの判決を下し、翌2015年4月14日に高浜原発の運転差止めの仮処分決定を出した人である。
事実と論理と憲法が重視される裁判において、「原発NO」という答えが出るのは当たり前なことなのだが、それが当たり前でないところに日本の悲劇はある。
大飯原発運転差止めの判決は、2018年7月4日に名古屋高裁で取り消された。
樋口は2017年8月の定年後、講演や執筆などで原発の危険性を訴える活動をしている。
裁判官が退官後とはいえ、自分が関わった事件について、論評することはほとんどと言ってよいほどありません。論評することが法に触れるわけではありませんが、論評しないことは裁判所の伝統であることは間違いないのです。なぜ、私がその伝統を破ってまで、原発の話をしなければならないと思ったのか。それは、専門家でない私の目から見ても、原発の危険性があまりにも明らかだったからです。そして、原発の危険性が専門知識のない素人目にも明らかだということくらい恐ろしいことはないのです。原発や地震学についての詳しい知識は要りません。思い込みを持たずにものごとを素直に捉える目を持った高校生以上の方が、この本を読んでいただければ原発の危険性がどれくらい大きなものかお分かりになると思います。(本書「はじめに」より抜粋)
本書第一章では、原発の危険性について科学的事実あるいは福島原発事故という歴史的事実をもとに具体的にわかりやすく説明している。
既存の原発の耐震性(600~1200ガル)が、三井ホームや住友林業など一般住宅のそれ(3000~5000ガル)をはるかに下回るという事実には驚愕のほかない。
第二章では、原発推進派が繰り出す5つの弁明――たとえば、「原発がないと電力が不足する。お前は夏でも冷房を使わないのか!」、「原発にはCO2(二酸化炭素)削減の効果がある。地球温暖化を防ぐ役に立つ」といったような――に対して、やはり事実をもとに検討し、理路整然と反駁している。
原発推進派の弁明がいずれも、まったく理屈に合わない、子供だましのものであることが赤裸々にされている。
脱原発を唱える同志は、本書を読んで論理という武器を手にすることができよう。
第三章では、3.11という未曽有の悲劇を経験した我々が、後世の人々に対して果たすべき責任について書かれている。
我が国では、所得格差や教育格差、雇用問題、年金問題、コロナの問題等、いろいろ議論されていますが、原発の過酷事故が一度起きると、これらの社会問題を議論したテーブルはテーブルごとひっくり返ります。ですから原発の問題はもっとも重要な問題なのです。この原発の問題を正しく理解して、論理にしたがって行動してください。そして、ときには健全な怒りを示して下さい。
そう、ちゃぶ台返しの威力を持つのは、星一徹を別にすれば、原発と戦争である。
樋口英明氏とともに、声を上げなければいかん。
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損