1958年光文社
1961年新潮文庫
高峰三枝子出演の映画を観たら、原作を読みたくなった。
約45年ぶりに読み返して、清張の文章の上手さに感心した。
癖のない、平明で読みやすい文章で、読者の生理をつかんだ物語運びが見事。
読み始めたらぐんぐん引きずり込まれ、ページが進んでいく。
社会派ノンフィクションである『日本の黒い霧』とは文体が異なっている。
清張ミステリーの人気の秘密は、ミステリーの女王クリスティ同様、この読みやすさにあるのだなと実感した。
本作は、真犯人は誰かを読者に問う、いわゆるフーダニットではなくて、犯人がどうやって犯行をおこなったかを問うハウダニットである。
捜査陣は犯人の目星を早々につけ、あとは鉄壁のアリバイを崩そうと知力・体力をふりしぼる。
列車と飛行機の時刻表を駆使し第三者の目撃証言を作り上げてアリバイを成立させ、完全犯罪を狙った犯人が、刑事の執念によってじょじょに追いつめられていく。
トリック破りの面白さが、一番の読みどころである。
初読の中学生の時は面白さに圧倒され、読んでいる最中も読後も何の疑問も抱かなかったが、いま読むといろいろな疑問点が浮かぶ。
中でも、この犯人安田辰郎が、トリックに手をかけ過ぎたことによって、かえってボロを出してしまったという逆説が、プロット上の一番の難点と思われる。
安田は犯行をおこなう前に念入りにアリバイ工作を行う。複数の人間に前もって協力を依頼し、然るべき指示を出す。
そして、恋人同士ではない知り合いの男女一対を博多の海岸におびき出して毒殺し、心中に見せかける。殺したい本命は男のほうである。
さらに、その男女が東京駅で一緒に列車に乗り込むところをプラットフォーム「4分間の空白」を利用して第三者に目撃させ、2人が恋愛関係にあることをほのめかす念の入りよう。
やり過ぎである。
結果として、偶然とは思えない「4分間の空白」がきっかけとなって刑事に疑われる羽目に陥り、殺された男女につき合っていた形跡がまったく見当たらなかったことから心中を装った他殺ではないのかと怪しまれ、複数の人間にアリバイ工作の協力を頼んだことで逆に確たる証拠をあちこちに残してしまったのである。
これなら最初から何の作為もせずに、どこかの崖っぷちで男を撲殺し、その後靴を脱がして死体を崖から突き落として自殺に見せかけたほうが、バレる可能性は低かったであろう。
そもそも、殺された男と安田を結びつける接点は少ないのだから、捜査陣はまず容疑者を絞るのに苦労したはずだ。
「4分間の空白」というトリックの関係者の一人として登場し、その存在をわざわざ捜査陣に知らせてしまったのは致命的エラーと言える。
まあ、そんなこと言ったら、アリバイ崩しの面白さもへったくれもないわけで、この物語は成り立たなくなる。
現実社会では、トリックを考え抜いてから人を殺す殺人者は滅多いないだろう。
推理小説にあっては、犯人にトリックを作ってもらわないことには話にならない。探偵の出番もない。
自信家である安田は自分(と妻の)考え出したトリックが破れるかどうか、警察に挑戦したかった。
とりわけ、東京駅「4分間の空白」という発見を誰かに知らせたくて仕方なかった。
そこで、自分も目撃者の一人となって容疑者の名乗りを上げた。
策士、策に溺れる。
そう解釈しておこう。
自信家である安田は自分(と妻の)考え出したトリックが破れるかどうか、警察に挑戦したかった。
とりわけ、東京駅「4分間の空白」という発見を誰かに知らせたくて仕方なかった。
そこで、自分も目撃者の一人となって容疑者の名乗りを上げた。
策士、策に溺れる。
そう解釈しておこう。
なつかしの東京駅発大垣行き最終列車
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損