1983年松竹
123分

 小津安二郎監督没後20年に公開された伝記ドキュメンタリー。
 『大学は出たけれど』『一人息子』『父ありき』『戸田家の兄妹』『風の中のめんどり』『晩春』『麦秋』『東京物語』『早春』『秋刀魚の味』等々、無声映画からトーキーを経てカラー作品に至る小津作品の名場面の数々や、小津とゆかりのあった役者、映画監督、スタッフ、文化人らへのインタビューをつなぎながら、60年の生涯を城達也のナレーションでたどる。
 没後60年にあたる今年は回顧展が催された。
 
 小津とのエピソードを語る出演者の顔触れがとにかく豪華。
 笠智衆、岸恵子、司葉子、有馬稲子、淡島千景、岡田茉莉子、杉村春子、岸田今日子、岩下志麻、東野英治郎、中村伸郎、木下恵介、今村昌平、新藤兼人、山田洋次、厚田雄春、川喜多かしこ、ドナルド・リチー、佐藤忠男、中井貴恵、山内静男(里見弴の四男)、小津新一(実兄)、小津信三(実弟)、山下とく(実妹)等々。
 戦後の銀幕を彩った大女優たちの中年期の美貌と風格が圧巻である。(杉村春子はちょっと別枠だが・・・)
 小津安二郎の実兄と笠智衆の風貌や雰囲気がなんとなく似ており、もしかしたら小津監督は笠智衆に自らの父親を見ていたのかもしれないと思った。
 笠さんはほんと、老いていい顔している。

 役者たちは一様に、撮影現場で何十回と繰り返されたテストの話をする。
 セリフから、動きから、表情から、視線から、タイミングから、小津監督が前もって決めた通りに演じなければOKが出なかった。
 役者を一つの型にはめる演出は、家族ドラマという古くてマンネリなテーマと共に、評価が分かれるところであるが、今観ると、それぞれの役者の個性や良さはちゃんと引き出されている。
 笠智衆と原節子がその典型だろう。
 つまり、小津監督がそれぞれの役者の本質を見抜き、キャスティングしていたことを示している。
 現場ではもはや余計な演技をする必要がなかったのだ。

Odzuhaka

 鎌倉円覚寺にある小津安二郎の墓には「無」の一字が刻まれている。
 そこに托した思いを本作では「無常観」と解していたが、そもそもなぜ小津が無常観を抱くようになったかについては深掘りされていなかった。
 ソルティはやはり、従軍体験が大きかったのではないかと思う。

 京橋の国立映画アーカイブにて鑑賞。
 客席は高齢男性“おひとりさま”が圧倒的に多かった。
 年を取れば取るほど、小津の描いた世界が切に感じられてくるのだろう。
 超高齢化時代、小津人気は今後も高止まりを続けるのは間違いない。
 隣席の男が上映中しきりに鼻を啜っていた。
 
DSCN6064
国立映画アーカイブ



おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損