1960年日活
80分

 トニーこと赤木圭一郎の代表作として名高い。
 同名で発売したレコードもヒットした。

 撮影期間一ヶ月、いわゆる量産体制のプログラムピクチャーであるが、質は高い。
 山崎徳次郎監督についてはよく知らないが、脚本を担当しているのがその後日本を代表する国際的監督となった熊井啓、美術が『東京流れ者』、『ツィゴイネルワイゼン』、『火まつり』、『夢見るように眠りたい』、『親鸞 白い道』、『帝都物語』、『ドグラ・マグラ』などを手がけた木村威夫、音楽が「大きいことはいいことだ」の山本直純である。
 今となってみれば、贅沢極まりないスタッフ陣。
 構図の斬新さ、色彩の見事さ、セリフの良さに、痺れる。
 日活アクション映画と言えば、ヒーローがどれだけ気障なセリフを真顔で吐けるかが勝負である。
 本作の2大名ゼリフ。

杉敬一(赤木圭一郎): 友情なんてものは、ガキのはしかみたいなもんだ。一度はかかるが、そのうちケロッと消えちまうもんさ。

刑事(西村晃): おい、どこに行くんだ!
   (船の汽笛がボーと鳴る)
敬一: そうさな、霧笛に聞いてくれ。どうやら霧笛が俺を呼んでいるらしいぜ。

霧笛1
赤と青を対比させたショットが多い

霧笛2
縦の構図で立体感と奥行きが生まれている

霧笛3
鏡の中に親友(赤木)と妹(吉永)の姿を見る浜崎(葉山良二)

 吉永小百合が『拳銃無頼帖 電光石火の男』に続いて出演している。
 日活2作目である。
 難病と闘う健気な少女という、のちの『愛と死を見つめて』を予感させる、小百合にふさわしい役柄。
 やはり、可憐さと清純なオーラは半端でない。
 すでに脇役におさまらないレベルの輝きを放っている。
 
 しかし、本作で赤木の相手役となるヒロインは芦川いづみである。
 芦川いづみは美人で品があって芝居も上手い。
 本作では歌も披露しているが、これが実に美声で味があって聞き惚れる。
 吉永小百合と芦川いづみ、そしていま一人の日活ヒロインである浅丘ルリ子、3女優を比べたとき、吉永小百合の特異性がくっきりと浮かび上がる。
 これらのヒロインは、犯罪や暴力がテーマとなる日活アクションドラマにおける、いわば「泥中の蓮」である。
 脛に傷もつ男ばかりが右往左往し、容易に足抜けすることのできない汚泥のような裏社会に、すくっと咲いた一輪の蓮の花。
 が、同じ蓮の花でも、水面からの高さが違う。
 芦川いづみは水面に近いところに咲いていて、花びらに泥はねがついている。
 どことなく陰のある風情は、まかり間違えば、泥に吸い込まれそう。
 浅丘ルリ子はもう少し高いところに咲いていて、ガクに泥がついている。
 泥と馴染むことはできるが、自らは汚されることはない凛とした強さを持っている。
 吉永小百合は最初から絶対に泥がつかない圧倒的な高さで咲いている。
 そこからは周囲の葉に隠れて、水面が見えないほどである。
 住んでいる世界がまったく違うので、アクションドラマのヒロインは無理である。

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Charlie YoonによるPixabayからの画像

 ほかの出演者では、敬一の元マドロス仲間で無二の親友だった浜崎を演じる葉山良二と、刑事役の西村晃がいい。
 葉山良二の着る紫のシャツが、妙に美輪明宏チックで印象的である。

 ここまで3作、赤木圭一郎主演作を観たが、いずれもラブシーンがなかった。
 女性との一夜を暗示するようなシーンもない。
 本作でも、最後は芦川いづみ演じるヒロインと結ばれるかと思いきや、霧笛に引かれて街を去っていく。
 このストイック性が赤木の清潔感を生んでいるのかもしれない。
 赤木圭一郎もまた、別の意味で、「泥中の蓮」みたいなところがある。
 (そのうちラブシーンが見られるのかな?)




おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損