2019年イラン
90分、ペルシア語
原題 Sorkhpust は、調べたところペルシア語で「インド人」って意味らしいのだが、なぜインド人なのか不明。
ウォーデン(warden)は英語で「刑務所長」の意である。
イランの砂漠の中にある巨大刑務所のお引越し中に、死刑囚が一人いなくなった。
脱獄でもされた日には大事件である。
刑務所長は、男がまだ所内のどこかに身を隠していると確信し、部下を集めて必死に探し回る。
死刑囚のことをよく知るソーシャルワーカーの女性がやって来るが、彼女は男の無実を訴え、刑務所長と対立する。
完全撤退の期限が刻々と迫るなか、刑務所長は、男を隠れ処からおびき出すべく、ある作戦を決行する。
かくれんぼミステリーという、わかりやすい設定。
沢口靖子主演の『科捜研の女』に出てくるような最新科学機器を使えば、すぐに男の居場所がわかりそうなものなのに、全館に向けて拡声器で投降を呼びかけたり、捜査犬を使ったり、ごきぶりバルサンのように煙でいぶり出そうとしたり、非常に原始的。
イランの地方刑務所ってまだこんなレベルなの?――と思ったら、これは1960年代を舞台とする話であった。
たしかに、中庭に置かれた首吊りの死刑台は前世紀の遺物である。
一つ一つのショットが素晴らしい。
構図も色彩も照明もカメラワークも手練れている。
そのため、刑務所があたかも中世のお城のように美しく見える。
最後まで死刑囚の姿を映し出さないやり方も巧い。
姿の見えない主人公が、かえって存在感を増して、サスペンスを高めている。
三島由紀夫の『サド侯爵夫人』を思い出した。
ソーシャルワーカーの女性が元AKBの前田敦子そっくりである。
敦ちゃん、いつの間にイラン映画にデビューしたの?・・・と思った。
男尊女卑のイメージの強いイスラム教国の、男性社会の権化である刑務所という空間に、ヒジャブをつけない一人の女性ソーシャルワーカーがこうやって人権擁護の仕事をしていることに驚いた。
60年代のイランで、こんな状況があったのだろうか?
刑務所長を演じる男優は、一見、貫禄ある冷徹な物腰のうちにナイーブさと優しさを秘めた男を作り上げている。
邦画で言えば、往年の松竹三羽ガラスである上原謙・佐分利信・佐野周平を足して3で割った感じ。(かえってよくわからない?)
すなわち、イイ男である。
物語的には予想通りのヒューマニズムな結末でそこに意外性はないが、脚本、演出、撮影、演技、音響効果ほか非常に完成度の高い作品で、またひとりイラン映画に一流監督が誕生したことを告げてあまりない。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
おすすめ度 :★★★★
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