2023年講談社現代新書

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 彰優(えいゆう?)コンビニよる日本左翼史シリーズ第4弾。
 今度こそ完結編だ。
 明治維新から太平洋戦争までの左翼史を扱っている。
 4冊目ということで、二人の対話も役割分担もスムーズで、概して読みやすいものになっている。
 おそらく、前3冊と合本にして、かなり厚めの新書『日本左翼史』がそのうち刊行されることになるのだろう。
 よい企画だったと思う。

 日本の左翼がいつ誕生したかを特定するのは難しい。 
 板垣退助らによる自由民権運動(1874~)か、秩父事件(1884)か、幸徳秋水や片山潜らによる社会主義協会の設立(1990)か、日本社会党の結成(1906)か、日本共産党の結成(1922)か・・・。
 それはたぶん、左翼をどう定義するかによって変わってくるのだろう。
 マルクス主義に根差した改革(革命)運動という意味でとれば、社会主義協会の設立をもって左翼の誕生と言えそうな気もするが、1917年ソ連成立の影響を受けた、国体(天皇制)の変革を前提にした共産社会に向けての組織的運動という意味でとれば、日本共産党の結成が起点となるように思う。
 1922年には日本で初めての人権宣言である水平社宣言が発表されてもいる。
 この年が、日本左翼史において一つのメルクマールであることは疑いえない。

水平社宣言記念碑
奈良県御所市柏原に建つ水平社宣言記念碑

 いずれにせよ、戦前の左翼史についてはひと言でまとめることができる。
 「弾圧」である。
 開国このかた、欧米の植民地になることを防ぐための国民一丸となっての富国強兵・殖産興業、すなわち近代化を焦眉の急とした大日本帝国政府が、その流れに竿さそうとする動きに対して弾圧を加えたがるのは、わからなくもない。
 また、伝統的国体である天皇制の解体を目指す、背後に人類初の社会主義国家ソ連の影が揺曳する組織に対し、保守的な層のみならず、天皇を敬愛していた国民の大多数が危険なものを感じたのも無理はない。
 ただし、弾圧の仕方は到底、近代民主主義国家にふさわしいものではなかったが。
 その意味では、日本の左翼の真の誕生は、言論・集会・結社の自由が保障された戦後と言えるのかもしれない。

 以下、引用

佐藤 戦前の世直し運動、異議申し立て運動には右翼と左翼に加えて宗教というもう一つの極があり、この三者がときに対立し、ときに相互に重複しつつ展開していったというのが実際のところだと思うのです。

佐藤 自由民権運動は佐賀の乱や西南戦争など明治初期の士族反乱の延長線上にあるものであって、維新政府の「負け組」が仕掛けた単なる権力闘争にすぎない、というのが私の評価です。この運動を左翼の誕生とダイレクトに結びつけるのは無理があるでしょうね。
 
佐藤 右翼は宗教との親和性が高いので宗教と結託し、宗教の力を利用することもできたわけですが、左翼の場合は核の部分に無神論があるがゆえに宗教の活用ということはなかなかできなかった。

池上 廣松渉が『〈近代の超克〉論〉』(講談社学術文庫)でも言っているように、戦前において革命はタブーではなかったし、社会主義も決してタブーではなかった。ただ天皇制の否定だけがタブーでした。


 最後に――。
 本シリーズのそもそもの目的の一つは、「格差の拡大や戦争の危機といった現代の諸問題が左翼の論点そのものであり、左翼とは何だったのかを問うことで閉塞感に覆われた時代を生き抜く上での展望を提示する」というところにあった。
 しかるに、4冊終わってみると、この目的が十分達しられたとは言い難い。
 池上も佐藤も、左翼批判とくに共産党批判の向きが強く、美点よりも欠点をあげつらってばかりいる。
 欠点や過ちを指摘するのはよいが、それを検証してより良い方法論を示し、時代を生き抜く上での「展望を提示する」ところまでは至っていない。 
 読者に託された課題ということか。





おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損