2023年中日新聞社

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 中日新聞に2019年5月から足掛け5年にわたって連載された記事をまとめたもの。
 著者は1981年生まれの中日新聞記者で、大学院生だった時分から特攻の調査・研究を独自で続けてきた、いわばライフワークである。

 (本書は)太平洋戦争末期の陸軍特別攻撃隊を取材テーマに、生き残った隊員や遺族などの証言、日記、手紙などを取材し、個人の生死より国家を優先した戦時下の狂気と恐怖、非人間的な組織の論理を暴いた。さらに、組織優先の論理や風潮が戦後の日本社会に引き継がれ、企業不祥事や過労死など個人が犠牲になる温床になっていると警鐘を鳴らしている。過去の歴史を振り返るだけでなく、現代に生きる私たちが学ぶべき教訓として描かれている。
(中日新聞社編集局長・寺本政司による「まえがき」より)

 たとえば、ブラックバイトや過労死や派遣切り。人を部品か消耗品のように扱う非人間的組織の実態。
 たとえば、2018年に起きた日大アメフト部の悪質タックル事件。タックルを行った当人はコーチからの「命令」と言い、コーチ側はそれを否定する。上からの「命令」なのか本人による「志願」なのかを曖昧にする無責任体質。
 たとえば、100人以上の犠牲者を出した2005年のJR西日本福知山線の脱線事故。当時同社で行われていた、業務でミスした運転士を再教育する「日勤教育」にみるパワハラ、モラハラ、懲罰的な精神論。
 たとえば、安倍元首相夫妻が絡んだ森友事件で公文書の改竄を上司に強要され、自らの命を絶った財務省の赤木俊夫氏。組織上層部の保身によって、忠実で真面目な中間管理職が精神的な破滅に追い込まれていく悲惨な構図。
 たとえば、新型コロナウイルス禍の自粛警察や、マスクしない人や休業しない店に対するバッシング。相互監視と逸脱者への村八分につながる世間の同調圧力。

 著者は、戦後70年以上経った現在起きている数々の事件の背景に、「特攻」という人類史上稀に見る愚かで野蛮な戦術(という言葉すら当たらない愚行)を可能にした、我が国の精神文化、思想、組織体質、社会の空気――つまりは国民性が垣間見られるとしている。
 その通りであろう。 
 特攻こそは、日本というシステムにおける「負」の集積的象徴であり、日本人の究極の欠陥が具現化した徒花なのである。
 特攻の中に日本人が見える。

 理想の勇姿を消耗品扱いする作戦がまかり通ったのは、戦局悪化の責任を回避し、そのツケを前線の兵士に押しつける組織の論理でしかない。上層に向かうほど責任の所在が不明確になり、矛盾のしわ寄せが末端に押しつけられる。それは、今も変わらない日本型組織の特異性と言えるだろう。

日本刀

 本書ではじめて知ったが、特攻に失敗した兵隊――いったん出撃したものの、機体の故障や悪天候などで自爆という目的を果たさないまま帰還した兵隊――を隔離収容する「振武寮」という施設が福岡にあった。
 そこは帰還した特攻隊員の「仕置き部屋」と化し、上官による虐待が日常茶飯だったという。
 こんなひどい話もある。
 「特攻で亡くなった」と大本営が発表した兵隊に対し、天皇陛下が名誉の勲章を授与することになった。ところが、本人が生きて還ってきた。
 いまさら「間違っていました」と取り消すのもまずいと、上官はその兵隊を暗殺する命令を出した。(さすがにこの命令は部下たちの猛反対を受け実行されなかった)
 
 子供の頃から徹底した軍国主義教育を受けた少年兵ほど、特攻に対する抵抗感が低く、「お国のために散る」ことに憧れすら持つ――というのは、まさに洗脳の賜物だろう。
 自我が十分育たないうちに隔離して、組織に都合の良い情報だけを繰り返し注ぎ込む。
 国のために命を捧げる特攻隊を「軍神」と位置づけ、国民がこぞって持て囃す風潮をつくる。
 少年たちは自らが置かれた生贄的境遇を不自然に思うことなく、「神」を演じて戦場に出ていく。

 なんだか、最近話題のジャ×ーズの元少年たちのことを思い出した。
 

 

おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
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★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損