2012年フランス、ドイツ、ポーランド、スペイン
80分

 母親がアウシュビッツで殺される、ユダヤ人狩りを逃れるため諸国転々、妻がカルト教団に惨殺される、十代の少女への度重なる淫行、アメリカ追放・・・・。
 ポランスキーの人生はどんな映画の主人公よりも、波乱万丈で苦難に満ちてスキャンダラス。
 かくも厳しい人生と引き換えに、映画監督としての高い評価と輝かしい受賞歴を得たのだとしたら、神は残酷なのか公正なのか。
 29歳時の長編第1作『水の中のナイフ』(1962)で注目を浴びてから、最新作『オフィサー・アンド・スパイ』(2022年)まで60年、作品の水準を保ちながらヒット作・問題作・傑作を放ってきた安定した力量は、クリント・イーストウッドと比肩しうる。
 ソルティは80年代までは過去作を含めポランスキーを追っていたのだが、90年代以降の作品は『オリバー・ツイスト』以外観ていなかった。
 しばらく過去作を追ってみようかな。
 
 ベン・キングズレーとジェイミー・フォアマンの演技合戦が見物だった『オリバー・ツイスト』で分かるように、ポランスキー監督は役者の演技を引き出すのがうまい。
 役者たちに十分演技させて、そこを器用に掬い取って映像化する。
 演技力に自信あるベテラン俳優にしてみれば、気分いいことこの上なかろう。
 本作でも、ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリーという名優4人が、それぞれの役に没入し、スリリングな演技合戦を見せている。
 しかもこれはヤスミナ・レザ原作の『大人は、かく戦えり』という戯曲がもとで、登場人物は二組の夫婦すなわち4人のみ、最初から最後まで舞台はアパートメントの一室で、リアルタイムな(80分間の)「おとなのけんか」の一部始終を描いた作品なので、まさに4人の役者たちの斬るか斬られるかの壮絶な闘いが楽しめる。
 子供同士のけんかの後始末に集まった両夫婦が、はじめは穏やかに紳士淑女的に話し合っていたものが、ちょっとした言葉をきっかけにさざ波が立ち、それが次第に大波、高波、荒波、怒濤になっていく。
 二組の親同士のけんかが、それぞれの夫婦間のけんかになり、しまいには夫組と妻組に分かれての男女間のけんかになる。
 とにかく脚本が見事。

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Gerd AltmannによるPixabayからの画像

 やはりジョディ・フォスターの上手さが目立つ。
 舞台と違ってアップショットのある映画だと、千変万化する表情が物を言う。
 ジョディは顔の筋肉を自在に動かせるようだ。
 同じ美人女優でも、吉永小百合にはこれができない。




おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損