2022年イギリス
100分

 観ているうちに「一体、なにこれ?」と頭の中が疑問符だらけになり、予想のしようもない明後日方向のシュールな展開にあぜんとし、見終えた後もなんと人に説明していいか分からない類いの、ジャンル分けを拒む映画――それがウミウシ映画である。

nudibranch-2336896_1280
Kevin Mc LoughlinによるPixabayからの画像

 本作も、英国の瀟洒なカントリーハウスと美しい森を舞台にした、オーガニックでナチュラルでヒーリング系な映像(と音楽)から始まるので、スローフードやSDGS志向の女性観客をターゲットにした、傷ついた女性の心の回復物語と思っていた。
 たしかに、主人公の女性(ジェシー・バックリー)は恋人に別れ話を切り出し、言い争いの末に男は女を殴り、女は男に最後通牒を突きつけ、絶望と怒りから男は女の目の前で飛び降り自殺し、女は自らを責め苛むことになった。
 孤独と静寂と美しい自然とが、彼女の心を癒し、新しい出会い&人生が始まるのだろう。

 と思いきや、チン×ンぶらぶらの裸の男の出現を機に、物語はサスペンスホラーへと突入する。
 人里離れた森の邸にたった一人で住む若い女性を、男たちは放っておかない。
 どこかオタクっぽい家主の男、ストーカーまがいの裸の男、精神不安定な若者、下心みえみえの神父、男尊女卑丸出しの警官。
 おかしなことに、彼らはみな同じ顔をしている。
 そのあたりからストーリーは現実を離れ、悪夢かSFか、さもなくば主人公の妄想?――のオカルトファンタジー領域に入っていく。
 深夜の邸に一人、家を取り囲む男たちの気配に怯え、包丁を握りしめる主人公。
 やはり最後はスプラッタホラーになるのか?

 と思いきや、裸の男がギリシア神話のサテュロスのような恰好をして現れたとたん、物語は完全に「ウミウシ」領域に飛躍する。
 一体、なにこれ?
 予想すらしなかった展開にあぜんとしつつ、本来なら神聖であるべき営みのグロテスク映像に観る者の思考は麻痺させられる。

 すべては主人公のトラウマが生んだ妄想なのか?
 それともMEN(男たち)は実在したのか?
 この映画をどう解釈したらよいのか?

 ・・・・ウミウシとしか言いようがない。
 
 あえて言うなら、ソルティはジェンダーバイアス・ホラーとでも言いたい気がした。
 女にとって、理解できないMEN(男たち)の行動は十分ホラーになり得るという。
 
 一人五役でMEN(男たち)を演じ分けるロリー・キニアという役者が凄い!
 途中まで、それぞれ別の役者が演じているのかと思っていた。
 英国舞台出身俳優の実力をまざまざと知る。
 


おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損