日時 2023年11月18日(土)
会場 日本交通協会会議室(有楽町・新国際ビル内)
主催 日本仏教鑚仰会
8年前中野サンプラザで聴けなかった佐々木氏の話。
ようやく目の前で聴くことができた。
『科学するブッダ 犀の角たち』、『仏教は宇宙をどう見たか』など、氏の本には啓発されるところ大である。
会場の新国際ビルには初めて来たが、有楽町のこのあたりの変わりように驚いた。
ソルティの記憶の中では灰色のビルディングの並ぶ殺風景なイメージしかなかったのだが、街路樹の続くレンガ敷きの路上にテーブルが置かれ、休日を思い思いに楽しむ人々が往来する様子は、まるでカルチェラタンのよう。カルチェラタン行ったことないのだが。
あっ、岸恵子!(ウソ)
左の建物が会場となった新国際ビル
冒頭一番、佐々木氏は「これからの時代」を「今日よりも明日が悪くなる時代」と断言した。
改めて言われるまでもなく、多くの日本人が感じていることだろう。
少子高齢化、慢性化した不景気、広がるばかりの所得格差、国際競争力の低下、値上げラッシュ、地方の衰退、軍備増強、無縁社会に孤立する人々・・・。
外を見れば、ウクライナ×ロシア戦争、イスラエル×ハマス戦争、気候変動による災害、ナショナリズムの興隆、分断する国際社会・・・。
戦後日本人が享受してきた「豊かさと安全」が崩れようとしている。
一方、世界的な潮流として価値観の大きな変容が見られる。
「より多くの物を手に入れることが幸福」という資本主義イデオロギーの不毛に気づき、商業主義の洗脳から目覚めた人々は、新たな価値観のもと、これまでの生き方を変えようとしている。
そんな時代にますます重要度を増すのが仏教である、と佐々木氏は説く。
世間における幸福とは「欲求の充足、夢の実現」。これは私たちが生物として持っている本能的思考。「虹の向こうの夢を追い求める気持ち」が人類を発展させ、そして多くの人を苦しめてきた。(当日講師配布資料より抜粋、以下同)
「欲」を三毒――三つの悪しきもの、残り二つは「怒り」と「無知」――の一つとし、すべてを捨て去っての出家をすすめたブッダの教えが、資本主義と相反するものであるのは間違いない。
大乗仏教宗派や仏教まがいの新興宗教の中には、この根本が崩れて、お布施という名の集金活動に熱心なところも見受けられるが、本来の仏教は「欲望の充足でなく、欲望を持たない状態を目指す」。
そして、人の抱く究極の欲望が「永遠の命」である。
仏教が、キリスト教やユダヤ教やイスラム教と決定的に異なるところは、後者3つが来世信仰すなわち「天国で永遠の幸福のうちに生き続ける私」という、自我(あるいは魂)の存続を最高到達点とするのにくらべ、仏教は(少なくとも原始仏教は)「この世であろうと、あの世であろうと、生き続けることは苦しみであるから、二度とどこにも生まれ変わらないようにしよう」という涅槃寂静をゴールとする。
また、神や教会などの外部に救いを求めず、あくまで修行によって「自分の力で自分を変える」。
仏教がいかに既存のほかの宗教と異なることか!
もっとも、佐々木氏は言う。
欲求を追い求める人生と追い求めない人生には、優劣も善悪もない。どちらの人生を選ぶかは、人それぞれの状況が選択の基準になる。ただし、欲求を追い求める人生には、「快楽」と「苦」とがつきまとう。
佐々木氏の講義(=説教)は、基本的にテーラワーダ仏教のスマナサーラ長老の説くところと同じ。つまり、原始仏教そのもの。
阿弥陀様の本願とか、弥勒菩薩の救済とか、称名念仏による極楽往生とかを信じる人々にとっては、梯子をはずされて谷底に突き落とされるようなショッキングな内容である。
以前、日蓮宗のお寺がスマナ長老を迎えて法話を開催したことがあったが、そのときの会場の凍り付いた空気をソルティはよく覚えている。
本来の仏教は、身も蓋もないほど、人々の抱く生ぬるい幻想をひっぱがす鋭利な刃物なのである。
ただ、大学教員である佐々木氏の語りは流暢でユーモアがあり、表情や仕草も多彩で、穏やかな雰囲気を発していた。
時折、鋭い眼光を放つ瞬間もあり、世間向けの仏教伝道者としての顔と、深い学識と思想を湛えた研究者としての顔と、使い分けているのだろうと察しられた。
休憩時、70歳以上が9割がた占める会場を見やりながら、ふと思った。
こういった話を佐々木氏の教え子である(サトリ世代と言われる)令和の若者たちは、どんなふうに聴くのだろう?
経済成長と所有資産の拡大こそが幸福と疑わない多くの昭和世代とは、また違った受け取り方をするのだろうか?
日本におけるテーラワーダ仏教の今後はどうなっていくのだろう?
休憩後、スマホを確認していた佐々木氏から、池田大作の死を教えられた。
(仏教は)社会を変えることで人を救うのではなく、人を救えない社会で苦しむ人たちを受け入れる受け皿、その目的は、社会の片隅で永く存続すること。
※本記事は実際の講義内容のソルティ流解釈に過ぎません。あしからず。