2023年ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデン
117分

 郊外のマンモス団地で繰り広げられる子供たちのサイキックバトル。
 ――と言うと、大友克洋の漫画『童夢』を想起する人が多いと思う。
 本作はまさに、フォクト監督が『童夢』からインスピレーションを得て作ったそうだ。

 ソルティの選ぶ日本漫画ベスト20に、『ブラック・ジャック』、『ポーの一族』、『デビルマン』、『ガラスの仮面』、『綿の国星』らと並んで入って来る傑作『童夢』。
 これは観ずにおくものか、と池袋は新・文芸坐に足を運んだ。
 フォクト監督は1974年ノルウェー・オスロ生まれ。
 本作は本邦未公開の『ブラインド 視線のエロス』に続く長編2作目である。
 
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 新・文芸坐
なんとシルバー料金適用になっていた! 嬉しい!

 夏休み中に一家で団地に越してきたイーダは、同じ年頃の少年ベン、少女アイシャと親しくなる。
 ベンとアイシャ、そしてイーダの自閉症の姉アナは、超能力をもっていた。互いが触れ合うことで、それぞれのパワーが目覚め、開発され、増幅していく。
 中で、機能不全家庭で育ちサイコパスな一面をもつベンは、自らのパワーに酔いしれ、そのうち自分の気に食わない人間を殺害するようになる。
 とどまるところを知らないベンの残虐を止めようと、イーダとアナは立ち上がる。 

 『童夢』のような、超能力者同士が宙を飛び交い、テレポーテーションし、団地がぶっ壊れるような派手なサイキックバトルはない。
 現在ならCGを使えば、それほど予算をかけなくともそうしたサイキックアクションも可能と思うが、そこはアメリカ的商業主義を忌避する北欧映画。落ち着いた文芸タッチが窺われる。
 大人たちの気づかぬところで、淡々と地味に、子供同士の闘いは起こる。
 少年と少女たちの――。

 そう、『童夢』とのなによりの違いは、闘いの激しさや破壊の大きさにあるのではない。
 『童夢』が、ボケて子供帰りしたジジイのチョウさんと、一人の少女との決死の闘いであるのにひきくらべ、本作が子供と子供の闘いになっている点である。
 これがなにより決定的で、『童夢』を世界漫画史上に燦然と輝く傑作たらしめている寓意――童子のフリをした大人が、ほんものの童子に正体を暴かれて、敗北する――が、まったく本作には欠けている。
 つまり、聖書の次の句と呼応するような人生の真実のひとつ。
 
 我、童子のときは
 語ることも童子のごとく
 思うことも童子のごとく
 論ずることも童子のごとくなりしが
 長じては童子のことを捨てたり
 (『コリントの信徒への手紙 一』13章11)

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童夢(双葉社)
 
 『童夢』が、汚れちまった大人に対する童子=無垢(イノセント)の勝利を描いた作品であるとしたら、本作の少年ベンは『オーメン』に出てくるダミアンみたいな悪魔っ子キャラであり、最初から無垢とは程遠い。
 フォクト監督は、大友克洋にオマージュを捧げつつも、「童子がイノセントだなんて嘘っぱちだ」と言っているようだ。
 ま、そのとおりだろう。
 
 ここで代わりに無垢性を帯びているのが、イーダ―の姉で自閉症のアナ。
 自閉症=知的障害者=無垢的存在という描き方は、90年代に話題になった野島伸司脚本のTVドラマ『聖者の行進』や『未成年』のようで、ベタ過ぎてちょっと気恥かしい。
 が、アナ役の女優アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタは、驚くべき演技力で自閉症患者に扮している。
 ソルティは社会福祉士養成課程の実習の際、1ヶ月ほど自閉症患者と触れ合っただけの通りすがりであるが、実によく患者を観察し、演じているものと感心した。
 自閉症の子供をもつ親御さんや支援者らに、アルヴァの演技の評価を伺いたいものである。
 
 『童夢』という漫画を先に読んでなければ、本作をもっと楽しめたかもしれない。
 あの作品を初めて読んだ時の衝撃には到底及ばず・・・・。





おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損