2019年チェコ、スロヴァキア、ウクライナ
169分、白黒
言語 インタースラーヴィク、ドイツ語、ロシア語
2023年もあと少しで終わる。
例年のように、今年観た映画のベスト10を選定する頃だなあと思いつつ、見納めの一本を借りたところ、これが本年ベストワンだった。
映画の神様は、映画を愛する者を見捨てない。
ソルティは観終わるまで『異端の島(しま)』と勘違いしていた。
原作はポーランド出身のイェジー・コシンスキ(1933-1991)の小説 『ペインテッドバード』( The Painted Bird)。 『異端の鳥(とり)』である。
原作はポーランド出身のイェジー・コシンスキ(1933-1991)の小説 『ペインテッドバード』( The Painted Bird)。 『異端の鳥(とり)』である。
タイトルの由来は、羽根にペンキを塗られて空に返された鳥が、仲間たちに一斉攻撃されて殺されるシーンから来ているのだろう。
つまり、異端者に対する差別や暴力がテーマなのであった。
てっきり「島(しま)」だと思っていたソルティは、砂に首まで埋められた子供をカラスが狙っているDVDパッケージの写真を見て、『悪霊島』や『イニシェリン島の精霊』のような因習深い離れ小島を舞台にした、村人たちによる児童虐待の話かと思っていた。
てっきり「島(しま)」だと思っていたソルティは、砂に首まで埋められた子供をカラスが狙っているDVDパッケージの写真を見て、『悪霊島』や『イニシェリン島の精霊』のような因習深い離れ小島を舞台にした、村人たちによる児童虐待の話かと思っていた。
時代はいつで、ここはどこなのか。
まったくわからないまま物語は始まる。
まったくわからないまま物語は始まる。
電気もなく、水道もなく、車も走っていない貧しい村の様子から、中世ヨーロッパのように見える。
村人が話している言葉もどこの国の言葉なのか見当つかない。(それもそのはず、インタースラーヴィクという人工言語が使われていた)
村人が話している言葉もどこの国の言葉なのか見当つかない。(それもそのはず、インタースラーヴィクという人工言語が使われていた)
「吸血鬼」「悪魔の子」といった字幕の断片や、怪しげな呪文と粉薬で病人を癒す老婆の存在は、白黒映画であることも手伝って、イングマール・ベルイマン監督『第七の封印』を想起させる。
つまり、ペスト流行時代のヨーロッパの片田舎の話。
つまり、ペスト流行時代のヨーロッパの片田舎の話。
ベルイマンを想起させるのは舞台背景だけではない。
映像がまさにベルイマン的に凄いのだ!
空を突き刺す裸の樹木、万華鏡のような木漏れ日のきらめき、なめらかな水面に立つさざ波の皺、風に波打つ麦の穂、白黒映像を生かし黒々と浮かび上がる人物の影、ロングショットの構図の見事さ、移動ショットの巧緻と衝撃、そして物語をセリフでなくショットで紡いでいく節約性・・・・・。
これが映画でなくてなんだろうか?
これが映画でなくてなんだろうか?
ヴァーツラフ・マルホウル監督は、チェコ共和国出身らしい。
長編第3作となる本作が本邦初公開。
おそらく、将来、ベルイマン、溝口健二、ジャン・ルノワール、黒澤明、ヒッチコック、タルコフスキー、フリッツ・ラングなどと並び称される可能性の高い、半世紀に一人の映像の天才である。
3時間に近い長尺であるが、息をのむような映像の連続に圧倒され、時間を忘れた。
これは映画館の大スクリーンで再び観たい。
名前も出自も背景も分からぬ少年が、行く先々で大人たちから酷い虐待を受けては逃げのびる。
村から村へ、村から町へ。女主人から女主人へ。女主人から男主人へ。
村から村へ、村から町へ。女主人から女主人へ。女主人から男主人へ。
「いったい、彼は何者なんだろう? なぜ、大人たちは彼をいじめるんだろう?」
少年は行く先々で、大人たちの醜さ、残酷さ、隠された欲望を身をもって知り、世界の残酷さを嫌でも学ばされる。
少年は行く先々で、大人たちの醜さ、残酷さ、隠された欲望を身をもって知り、世界の残酷さを嫌でも学ばされる。
まるで、ダンテ『神曲』のような地獄めぐり。
イノセントであった少年は、大人たちに感化され、次第に悪を覚えていく。
主役の少年を演じているペトル・コトラールは、役者ではなく、監督が見つけてきた素人という。
少女と見まがうほど傷つきやすい心を持った優しい少年が、煉獄めぐりを経て、しまいには鉄面皮のサイコパスのようになっていく過程を、驚くべき直感で演じている。
その瞳の力強さは、観終わった後もなお、鑑賞者の胸を刺し続ける。
その瞳の力強さは、観終わった後もなお、鑑賞者の胸を刺し続ける。
少年の「悪」が育つのと並行して、周囲の大人たちの「悪」も強度を増していく。
いや、逆だ。
大人たちの「悪」の描写が、個人的な悪徳から集団的な狂気に転じていくに従い、それに付き合わせられる少年の「悪」も取り返しのつかないものになっていく。
大人たちの「悪」の描写が、個人的な悪徳から集団的な狂気に転じていくに従い、それに付き合わせられる少年の「悪」も取り返しのつかないものになっていく。
物語の半分くらいで、軍人が登場する。
このあたりから、時代背景が明らかになってくる。
ネタばらしはしないでおくが、ここでようやくタイトルの意味が飲み込めた。
そうだったのか!!
これはホモ・サピエンスという種が宿命的に有する「悪」の物語である。
映像において、内容において、本作の衝撃はまぎれもなく本年ベストワン。
ガザ地区をめぐる現状を誰もどうすることもできない2023年末、本作を観ることをソルティに選ばせた映画の神は、容赦ない。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
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