1956年アメリカ
232分

 イスラエルによるガザ地区侵攻のニュースを観ていた老母から、「そもそも何が原因で闘っているの?」と聞かれ、答えに窮した。
 それを答えるにはどこから始めないといけないのか?

 第二次大戦後のイスラエル建国とパレスチナ難民?
 ナチスドイツによるユダヤ人虐殺
 シェイクスピア『ベニスの商人』にみられる中世ヨーロッパのユダヤ人差別?
 ローマ帝国によるエルサレム陥落? 
 イエス・キリストを銀貨30枚で裏切ったユダ?
 ナブッコ王によるバビロン捕囚?
 やっぱり、『旧約聖書』から始めないといけないのか?
 ・・・・・・。

 古代エジプトで奴隷として酷使されていたイスラエル人たちが、救世主モーゼに率いられてエジプトを脱出する顛末を記した『旧約聖書』の『出エジプト記』くらい、イスラエル人もといユダヤ民族のアイデンティティの核となっている物語はないであろう。
 ユダヤ人の受難、モーゼの登場、エジプト王による迫害、民族大移動、海が割れる奇跡、シナイ山での「十戒」授与、そして放浪から約束の地カナン(現在のイスラエル)へ。
 ユダヤ民族にとっては、ガザ地区を含む地中海東岸およびヨルダン川・死海西岸は神から与えられた「約束の地」であり、十戒を守ることと引き換えにユダヤ民族に託された文字通り「聖地」なのである。
 『出エジプト記』が紀元前1300年頃の話というから、3000年以上前からの因縁がそこにはあるわけだ。
 史実がどうかは関係ない。
 ユダヤ教を信じる人々にとって、それは真実なのだ。

 アメリカの映画業界とくにハリウッドが、ユダヤ系移民の力によって作られ支えられてきたことはよく知られる。
 本作を見ると、そのあたりの事情が垣間見られる。
 とにかく注ぎ込まれているパワーが尋常でない。
 ゴージャスで、スペクタクルで、見どころ満載。
 CGのない時代に、本物と見まがうほどの古代エジプトの建物セットをこしらえ、大量のエキストラ(動物含む)を動かし、鮮やかな色彩による美術も衣装も豪華絢爛。
 50年代ハリウッドの力、アメリカの国力をまざまざと感じるが、重要なのはしっかりと『旧約聖書』の記述をなぞっている点である。
 ユダヤ系が多かったであろう制作者たちの篤い信仰や民族愛が発揮されているのは間違いないところである。

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エジプト脱出シーン
CGじゃなくて実写である

 モーゼを演じるのはもちろんチャールトン・ヘストン。
 この人の代表作は、本作と『ベン・ハー』と『猿の惑星』と言っていいと思うが、共通するのは191cmの肉体美を見せつける半裸シーンの多さであろう。演技も悪くはないが、なによりスクリーン映えする男優だった。
 対して、エジプト王に扮するのがユル・ブリンナー。この男も肉体美であるが、ヘストンと並ぶと見劣りしてしまう。そのかわり、芬々たる男性ホルモンと芝居の上手さで、ヘストンに劣らない魅力と存在感を放っている。
 ウィキによれば、ブリンナーはウラジオストック(旧ソ連)出身らしい。それを踏まえると、プーチンが憧れ模倣していたのは実はブリンナーだったのではないかという想像が働く。なんか似ていない?
 エジプト王妃を演じるアン・バクスターは、美貌だけでなく、演技も見物。オペラ『アイーダ』のアムネリスを思わせる、プライドが高くて気の強い女の情熱と嫉妬のドラマを見せてくれる。

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チャールトン・ヘストンとユル・ブリンナー
 
 現在日本で作られている映画を20本、いや30本集めても、この一作が与えてくれる満足感には到底及ぶまい。
 それこそピラミッドのような、ハリウッド黄金期の記念碑である。

P.S. モーゼが神から授かった十戒には「汝、殺すなかれ」とあるのだが・・・・。

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海が割れるクライマックスシーン
崖の上に立つモーゼ(天童よしみではない)




おすすめ度 :★★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損