2014年光文社
2023年河出書房新社(改訂版)

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 著者は1971年香川県生まれの立憲民主党の国会議員。2020年に公開されたドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督)で広くその存在を知られるようになった。
 ソルティは、タイミングが合わなくて『なぜ君~』を見逃したが、気になっていた男であった。
 アベノクライシス後の日本の望ましいあり方を考えてみたいと思い、本屋の政治関係の棚を見ていて本書を発見。
 2014年に発行され、その後絶版となっていたが、支援者からの要望もあり昨年再出版に至ったという。
 東大法学部卒業、元自治省の官僚という堂々のエリートコースを辿ってきた小川淳也という政治家が、どんな日本の未来像を描いているか。

 まず感心したことに、日本の現状を数値データをもとに客観的に分析し、課題を現実的にとらえている。
 今後の日本の行く先を考える上で、いちばんの問題がどこにあるか、避けては通れない不都合な真実が何なのか、しっかり押さえている。
 すなわち、
  1.  人口構造の激変(少子高齢化)
  2.  人口減少の加速(2100年には日本の総人口は半減!)
  3.  エネルギー環境問題(エネルギーの枯渇や地球温暖化)
  4.  超国家問題に対する国際政治の遅れ(一国だけで解決できない問題の増加)
 ありていに言えば、もはや、「成長・拡大の時代は終わった」ということである。
 60年代高度経済成長期のような右肩上がりの好景気も、70年代の一億総中流社会の栄光も、80年代バブル期のイケイケドンドン消費天国も、今後日本では望めないという冷徹な事実である。
 これが飲み込めていない大人が多いからこそ、アベノミクスみたいな幻想に踊らされてしまうのだ。
 環境問題一つとっても、もはや大量生産・大量消費・大量廃棄はありえない。
 日本のみならず国際社会全体が「持続可能性ある社会」へと舵を切らなければならない。
 「豊かさ」の意味合いを今一度問い直す必要があるのだ。

 この現状認識をもとに、小川は取り組むべき国家戦略を4つ挙げる。
  1.  生涯現役
  2.  列島解放
  3.  環境革命
  4.  国際社会の変革
 そして、目指すべき将来の国家像を次のように語る。

 私は「競争力ある福祉国家」を創りたい。まず最初に目指すべきは「福祉国家」だ。「福祉国家」がもたらす安心感が、やがては国民の様々な挑戦やチャレンジを後押しし、国家と社会の競争力へとつながる。そんなイメージだ。そして福祉国家の建設を進めるには、国民の政治への信頼が不可欠である。政治への信頼は、国民の高い政治参画意欲によってのみもたらされる。すなわち、「投票率90%」だ。「投票率90%の競争力ある福祉国家」を創るのだ。

 賛成である。
 どうやら小川が描いているのは、フィンランドデンマークのような北欧型の高福祉国家らしい。
 そのためには当然、高い税金が必須となる。
 「福祉や医療や教育という形でちゃんと還元されるのであれば、高い税金を払うことも厭わない」
 「とつぜん職を失っても、離婚してシングルマザーになっても、起業に失敗して破産しても、ケガや病気や老衰で働けなくなっても、路頭に迷うことなく衣食住が保障され、新しい人生に向かって何度もチャレンジできるのならば、消費税25%だってかまわない」
 フィンランドやデンマークの人々がそのように語れるのは、税の使途に対する信用がある、すなわち政治家への信頼があるからにほかならない。
 ひるがえって、裏金作りに精を出す自民党の国会議員たちのていたらくを見よ。
 まともに税金を払うとバカを見る気になるではないか!
 その国の政治家の質は、国民の質の反映である。
 やっぱり、有権者がもっと賢くならなければならない。

 日本の教育に決定的に不足しているのが、社会の当事者となるべき、市民教育だ。どのような職業に従事するにせよ、社会の一員としての責任感覚を呼び覚まさなければ、その健全な担い手として期待できない。
 善も悪も混在する社会において、犯罪や非行、詐欺や暴力などから自分の身を守り、成人すれば、自立した社会の構成単位として、人によっては家族生活を営み、職業に従事し、政治参加、地域づくりを担う。そうした基本的態度や素養を身に付ける教育が必要である。

選挙
 
 さて、小川は上記の4つの戦略それぞれについて、具体的な政策(各論)を述べていく。
 本書タイトルが示すように、そのゴール設定を2050年としているのは、2050年に高齢化率40%(国民5人に2人が65歳以上)に達し、そこから横ばいになるからという。それまでに、持続可能性ある社会に向けて変革を進めていくべきと語る。
 根拠ある具体的な期限を設定して、政策を立案していくあたりは、さすが官僚出身者。
 
 具体策をいくつかピックアップすると、

 生涯現役を実現するために
  • 定年制の廃止
  • 年功賃金から能力別賃金へ
  • 社会保障を統合し、年齢区分を廃止(ベーシック・インカム導入についても検討)
  • 人生を終えるに際し、自らが受け取った社会保障給付費と支払った保険料の差額を社会に還元(遺産の多い人に限る)
 列島解放を実現するために
  • 世界の国々からの訪日のハードルを引き下げる
  • 国際空港・港湾の利用料の引き下げる
  • 法人減税による国内企業の競争力強化と外国企業の誘致
  • 希望するすべての中学生~大学生の国費による海外留学(国際感覚を身に付けさせる)
 環境革命を実現するために
  • 環境税引き上げを財源とする再生エネルギーの導入促進
  • 原発の縮小化と核融合エネルギーの利活用に向けての研究開発

 実現性はともかく、基本的ビジョンがしっかりあって、根拠も明確である。
 耳に心地良い話ばかりでなく、改革によって国民が負わなければならない痛みについても率直に述べている。
 そう、改革が抜本的であるほど、既得権益ある層の反発を受けるのは必至である。
 政治家はその抵抗を超えて、未来を生きる国民のために、現在の有権者を説得しなければならない。
 本書を読んだ限りの小川の印象として、東大法学部出身の頭の良さは当然ながら、正直な人、真面目な人、公正を心がけている人という感を持った。
 自民党の悪口をぐだぐだ並べていないところ、アベノミクスの良かった点もそれなりに評価している点もなかなかの人格者と見た。
 
 読んでいて、ちょっとここは弱いかなあ、追及されるだろうなあと思ったのは、やはり国防についてであろうか。(経済についてはソルティはまったくチンプンカンプンなので、コメントしようもない)

 尖閣・竹島・北方領土問題を始めとした困難な外交問題が、軍事力によって直ちに解決される時代とは思えない。国際社会からの信頼に勝る安全保障政策はなく、こうした理想主義は、未来に向けてはある種のリアリズムでもある。その意味で現政権の防衛費の倍増、敵基地攻撃能力の保持など勇ましい国防論議には逆に観念的で危険な臭いを感じている。 

 ソルティもまったく同意見であるが、たとえば櫻井よしこあたりの保守論客から、
「では、中国や北朝鮮のミサイルが日本に落ちたら、小川さん、どうなさるの?」
なんて突かれた時、答えに窮するのではないか?
 これはなにも小川一人の問題ではなく、立憲民主党が党として有事対策を考え、国民に表明し合意を取り付けるべきことと思うが・・・・・。

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 最後に――。
 つまるところ、民主国家の政治は国民を幸福にするためにある。政治家の仕事は国民に幸福を感じてもらうところにある。
 その意味で、「何をもって幸福とするか」という問いに対する回答こそ、問われた政治家の質を見極め、国民が票を投じるか否かを判断する上での重要なバロメーターとなろう。
 小川淳也は次のように語っている。

 人の幸せは100%主観的なもの。誰かがあなたの幸せをこうだと決めつけるようなものではありません。だから大切なことは、あなたが幸せと思える生き方を自由に選べる広い選択の幅、そしてお互いがそれを認め、尊重し合える懐の深い価値観、この二つが満たされる社会にしていく必要があると思うのです。
 
 今後も引き続き注目していきたい政治家の一人である。


 
 
おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損