2023年三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売

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 コロナ禍に莫大な財政支出があったのは記憶に新しいところで、「いろいろ助かるなあ」と全国旅行支援を利用する一方で、「これで日本の借金がまた増えてしまった」、「日本もそのうちギリシアみたいに破綻するのではないか」、「これから税金が上がっていくことになるのだろうなあ」、という不安も湧いた。
 年々増えていく国家予算、積み上がっていく国債残高、国民一人あたり800万円超と言われる借金。
 いったい、この先どうなるんだろう?

 一方で、「なんだよ。これだけお金をバラ撒くことができるのなら、普段からもっと低所得者対策に使ってよ!」、という疑問と苛立ちも覚えた。
 年金や医療保険の納付額の増加、消費税率アップ、公共料金の値上げ・・・・・。
 公租公課やインフラ関連支出の収入に占める割合は増えていくばかりなのに、給料は変わらず、高齢者のもらえる年金額は年々減っていき、開始年齢も引き上げられ、医療保険や介護保険の負担割合もシビアに区分けされ、生活保護費は減額されていく。
 庶民は、絞れるだけ絞られる菜種か。

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Mirosław i Joanna BucholcによるPixabayからの画像

 それでも文句も言わず(言ってるか)、なるべく無駄をなくして生活を切り詰めながら払うべきものを払っているのは、「高齢者にかかる年金や介護医療費が膨大なのに、少子高齢化や不景気で財政は危機的状況にある」、と政府が脅かすからである。
 歳入が限られていて歳出が増えれば赤字になるのは当然で、赤字を減らして国家破綻を防ぐには、歳出を抑えるか、歳入を増やすしかない。
 大学で経済学を学んでなくとも、普通の市民ならそれはわかる。
 子供の頃からお小遣いの使い方に悩み、サラリーマンとなっては毎月の給料の残額に青くなり、主婦となっては家計簿と睨み合い、経営者となっては帳尻を合わすのに苦労する。
 支出が収入を超えてはいけないというのは、経済の鉄則である。
 そう思ってきた。

 ところが、経済アナリストの森永卓郎は言う。
 「国家予算に限っては、それは正解ではない」
 「国債残高が増えても経済が破綻することはない」
 「消費税を上げるのは間違いだ」
 庶民の経済感覚からすると、「なに無茶なことを言っているのか?」、と思うけれど、森永は本気である。
 その言説の後ろ盾となっているのが、MMT(Modern Monetary Theory)すなわち現代貨幣理論である。

自国で通貨を発行している国は、政府債務がどれだけ増大しても、返済に必要な貨幣を自由に発行できるため、財政破綻することはない、とする経済学の学説。
(小学館『デジタル大辞泉』より抜粋)

 これ実は、ソルティも子供の頃から不思議に思っていたことだった。
 日本政府は日本銀行に命じて、いくらでも日本銀行券つまり円を発行できるはずなのに、なぜ増刷して貧しい人に配らないのだろう?
 我々庶民は自分でお金を作ることはできない(作ったら逮捕されてしまう)から、頑張って収支を合わせる必要があるけれど、自らお金を作ることができる国家は、足りない分のお金を作って補えばいいのでは?
――という素朴な疑問があった。
 たぶん、ドルを始めとする海外通貨との関係やら、日本銀行券が市場に出回ることによるインフレ発生やら、いろいろもっともな理由があるのだろうなあと思っていたが、なにぶん経済音痴のソルティ、考えてもわからないと追究してこなかった。
 MMTについて聞くようになったのはここ最近のことだが、なんだか虫のいい話で「眉唾」という印象があった。
 だって、収入と支出の帳尻合わせないとダメでしょ? 破産するでしょ?
 子供の頃からの思い込みは、すでに常識となっているからである。

 森永は本書で、8000万の日本人が持っているその常識すなわち財政均衡主義に異を唱え、それが税収を増やすことを至上命題とする財務省による“洗脳”なのだと喝破する。
 「ザイム真理教」という命名はそこから来ている。
 その仕組みは次のようなものだ。
  • 宗旨(教義) 財政均衡主義。「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の大きな赤字は日本経済を破滅させる」
  • 神話 日本の財政は破綻状態にある
  • 教祖 財務省
  • 幹部 国家公務員
  • 親衛隊 国税庁(盾突く者を成敗する)
  • サポーター 大手マスメディア(洗脳部隊)、富裕層
  • シンパ 岸田総理
  • 信徒 8000万人の国民
  • お題目 「増税は正義」、「国民と菜種は絞れば絞るほど取れる」
 若い頃に日本専売公社(現・JT)に勤めていた森永は、大蔵省(現・財務省)に絶対服従を強いられたという。令和の今ならパワハラ裁判になってもおかしくないエピソードがたんと書いてある。
 それだけに財務官僚たちの実態や財務省のやり口をよく知っていて、本書の告発につながったようだ。

 いまの政府の戦略は「死ぬまで働いて、税金と社会保険料を払い続けろ。働けなくなったら死んでしまえ」というものだ。この政策から逃れる方法は一つしかない。

 幕府の「増税」で追いつめられた農民のうち、一部の者は一揆を起こした。しかし、いまの日本では、一揆の気配さえ存在していない。そうしたなか、ザイム真理教の本質に気づいた国民はどう行動すればよいのか。
 私は「逃散」しかないのではないかと考えている。

 森永は現在、すい臓がんの第4ステージにあるという。
 ますます舌鋒が鋭さを増していくのは間違いあるまい。 

農民一揆

 ソルティはMMTが正しいのかどうかは分からない。
 が、社会保障費が足りないと言いながら、防衛費を増やし武器をガンガン買っていく今の政府は、詐欺師そのものだと思う。
 「国民の命を守るため」と言いながら、庶民の生活を破綻に追いやっているのだから。
 
 コクボー真理教という、より厄介なカルトがある。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損