1938年原著刊行
2012年創元推理文庫(訳・三角和代)
原題は The Crooked Hinge
邦題は直訳である。
蝶番(ちょうつがい、hinge)とはこれである。
曲がった蝶番が、トリックの要あるいは真相解明の鍵なのかと思って読み始めたが、全然関係なかった。
なんと、タイタニック号沈没事件(1912年)の生存者の記憶に鮮明に残った映像がそれなのであった。
本書のメインとなる殺人事件とはまったく関係ない事物なので、このタイトルの選び方は面白いなと思った。
本書の内容に見合ったタイトルをいつものカー流につけるなら、『金髪の魔女殺人事件』あるいは『自動人形は見ていた』ってところか。
17世紀にオルガン奏者によって作られ宮廷で披露された機械仕掛けの人形「金髪の魔女」が、重要な役を担っているのだ。
カバーイラスト・榊原一樹
25年ぶりにアメリカからイギリスに帰ってきたジョン・ファーンリーは、兄の死による爵位と広大な屋敷と財産を手に入れ、幼馴染のモリ―と結婚した。だが、1年後、パトリック・ゴアと名乗る男が弁護士と共に現れ、自分こそが真のジョン・ファーンリーであり正当な相続人であると主張する。パトリックの語るところによれば・・・
25年前アメリカに向かうタイタニック号で出会った身分の異なる二人の少年は、互いの身の上話をするくらい親しくなった。タイタニック沈没の混乱の中、貧しいサーカスの少年は裕福な貴族の少年の頭を殴り気絶させ、衣服や所持品を交換し、入れ替わった。その後、二人は九死に一生を得て、アメリカでそれぞれの新生活を始めた。行方不明者リストに名前が載っていたお互いが、とうに死んでいるものと確信して・・・・。英国に戻って今もパトリックとして気ままに暮らしていた男(真の正体はジョン)は、ある日、ジョン・ファーンリー(真の正体はパトリック)が生きていて爵位を継いだというニュースに吃驚仰天。「あいつ、生きていたのか! 俺のフリしてウマい汁を吸っていたのか!」
物語は、この2人(ジョンとパトリック)がファーンリー家の屋敷で対面し、証人たちのいる前でどちらが本物のジョン・ファーンリーかを証明せんとする場面から始まる。
まったくのっけから読む者を惹きつけワクワクさせる。
つかみはバッチリ!
つかみはバッチリ!
あっという間に物語の世界に没入し、ページをめくる手が止まらない。
そこに殺人事件が起こり、それはどうやら“姿の見えない殺人者”という不可能犯罪のようであり、数週間前に近隣で起きた独居女性殺人事件も絡んでいるようであり、背景には村で密かに広がっている悪魔信仰の匂いもあり、屋敷の屋根裏にしまわれた不気味な自動人形が事件の鍵を握る。
これでもか、これでもか、というような謎とオカルトの波状攻撃。
ここまで物語をあちこち膨らませて、いったいどう回収するのかと思っていたら、ものの見事に回収して一件落着させてしまう。
さすが不可能犯罪の帝王、カーである。
もっとも、読者が結末にそれなりに満足を得るのは、回収の仕方が上手いから、あるいはギディオン・フェル博士の見事な推理に感銘を受けたから、というよりは、本作の一番のトリック――真犯人の持っているある秘密――に吃驚させられ、言葉を失うからである。
冷静に考えると、25年ぶりに会った人間を偽物と見抜けない幼馴染たちのトロさとか、たいして害のない悪魔信仰がバレるのを恐れて殺人を犯す愚かさとか、真犯人の秘密をまったく見抜けない周囲の人間たちの鈍感さとか、不自然な設定がいろいろある。
が、そういった不自然さを、ストリーテリングの巧みさとこれまた非現実的で奇想天外なトリックで覆い隠し、読者をねじ伏せてしまうところが、カーのミステリーの凄さなのだろう。
このトリックは一度しか使えないもので、カーが最初で最後なのではないか。
Hinge は「自由な可動を許しながら、物と物とをつなぐ」という意味で、hinge joint 「蝶番関節」という使われ方もするようだ。
本作の原題はあながち的外れなものではないのかもしれない。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損


