2021年ハンガリー
116分、ハンガリー語、ドイツ語

 ハンガリー産ホラーを観たのは初めてかもしれない。

 一般に、ホラー映画の質は、制作国の宗教や信仰と切り離せない関係にある。
 キリスト教圏なら悪魔が、イスラム教圏ならジン(精霊)が、ユダヤ教圏ならゴーレムが、そして仏教圏なら鬼や幽霊(物の怪)が、ラスボスとなって、物語の中の生者や、映画を鑑賞する者を畏怖させる。
 ハンガリーはキリスト教圏なので、アメリカやイギリスやイタリアのホラー映画と同じく、悪魔こそが準主役にして恐怖の源であり、悪魔との闘いにやぶれた主人公が地獄落ちするのが、考えられる最悪の結末である。
 本作でも、悪魔の使いらしき邪悪な黒い影がハンガリーの寒村を跳梁し、次第に激しさを増すポルターガイストが村人たちを怯えさせ、パニックに襲われた人々は教会に逃げ込み、クライマックスでは主人公があわや地獄落ちかというスリルが用意されている。
 系統としては、『エクソシスト』、『オーメン』、『サスペリア』、『ダーク・アンド・ウィケッド』などのキリスト教圏ホラーに連なる作品である。
 
 Post Mortem とは「死後」の意。

 主人公のトーマスはドイツ人。第一次大戦に従軍し、戦場で爆撃に会い、九死に一生を得た。
 その後、ハンガリーで遺体撮影(Post Mortem Photo)の仕事をしている。遺族から注文を受け、亡くなった人の遺体に死化粧を施し、記念撮影する。
 ある日、仕事場に現れた少女アナに誘われ、アナの住む村を訪れることになる。
 そこには、スペイン風邪などで亡くなった村人たちの死体が、地面が凍っているため土葬されないまま、納屋に保管されていた。
 トーマスは、遺族の依頼で遺体撮影を開始する。
 が、彼が村に来ることを決めたのは、仕事のためだけではなかった。
 戦場で仮死状態にあったトーマスの目の前に天使のごとく現れ、繰り返し彼の名を呼び、この世に戻してくれた少女。それこそがアナだったのである。

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Thanks for your LikesによるPixabayからの画像
 
 本作の奇妙な味わいを作っているのは、悪魔系ホラーという“王道”に重ね合わせて、遺体写真家という、なんとも悪趣味で罰当たりな職業を主人公にふっているからである。
 美しい写真を撮るため、遺体の関節を折り曲げてポーズをとらせるシーンはグロテスクそのもの。
 勝手に被写体にされた死者の霊が憤って、トーマスになんらかの復讐を企てても、仕方ないのではないかと思う。
 現代日本なら「死体損壊」になりかねないと思うところだが、遺族が望んでいる点を踏まえると、これを罰する法はないかもしれない。
 エンバーミングとかエンゼルケアってのもあるし・・・・。

 まもなくトーマスは、人間でない邪悪ななにものかが、村に憑りついていることを知る。
 仲良くなったアナとトーマスは、悪霊を退治するべく、ホームズ&ワトスンのごとくタッグを組んで村人に聞き込み調査を開始し、証拠写真や音声を記録しようとする。
 そうした二人の行動を嘲笑うかのように、身の毛のよだつ現象が頻繁に生じるようになり、やがて村中が大騒ぎとなる。
 悪霊どもを地獄に返す方法を思いついたトーマスは、いままさに死の淵にあるアナの叔母のもとに、村じゅうの死体を集めるよう、村人たちに指図する。

 説得力に欠けたご都合主義のストーリーで、結局、悪霊の目的が何だったのか、最後までわからぬままである。
 説明もなく、謎のまま放置されたエピソードも多々ある。
 たとえば、
  • アナは一体何者なのか? なぜ村人の一部はアナを恐れるのか? アナの持っている二体の人形にはどういった意味があるのか?
  • トーマスの体に戦場で受けた傷跡が残っていないのはなぜか?
  • 一部の村人が頭に袋をかぶっているのはなぜか?
  • クライマックスシーンで、家の外は火事なのに、家の中は水浸しって、どういうこと?
  • アナの叔母さんはなぜトーマスを憎む?
  • 村人たちがトーマスに従順なのはなぜ?
  • ラストシーンで、アナとトーマスは新しい村に行って何をするつもり?
 よくわからない、消化不良を起こす類いの映画なのである。
 こうした回収されない謎の多さは、表面上のストーリーの裏に何らかの意味が隠されていることを匂わせ、観る者をして自分なりの解釈を紡ぎたい誘惑を抱かせしめる。
 ひょっとしたら、この物語全体がハンガリーという国や歴史の寓意になっている?
 ひょっとしたら、トーマスは実際には戦場で死んでいて、ここはすでに「死後」の世界?

 ソルティのひとつの解釈として、トーマスは自らが戦場で死んだことを悟っていなくて、魂の運び役をつとめるアナは、それを気づかせようとしたのでは?――と思った。
 つまり、『シックスセンス』や『アザーズ』や『月下の恋』のパターンである。
  
 この解釈が妥当かどうか確かめるべく、早送りしつつ3度見直したが、無駄に終わった。
 たぶん、謎には最初から答えが用意されていない。
 この監督は、ストーリーの整合性などたいして気にすることなく、撮りたい絵を、撮りたいシーンを、撮りたいように撮っただけ――それが真相に近いと思う。
 たとえば、青年と美少女のタッグに匂うロリコン志向、髪をなびかせ浮遊する少女、袋をかぶった少年、車いすをカタカタ動かす老婆、大理石の屋敷に飾られた遺体、地盤沈下していく民家、遺体撮影という悪趣味・・・・e.t.c.
 つまり、この監督の作風にもっとも近いのは、イタリアB級ホラーの帝王ダリオ・アルジェントではないか。
 ゆめ考え過ぎるべからず。
 
 
  
おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損