- ヴィオレッタ・ヴァレリー: エディタ・グルベローヴァ(ソプラノ)
- アルフレード・ジェルモン: ニール・シコフ(テノール)
- ジョルジョ・ジェルモン: ジョルジョ・ザンカナーロ(バリトン)
指揮:カルロ・リッツィ
演出:ピエル・ルイジ・ピッツィ
オケ&合唱:フェニーチェ座管弦楽団&合唱団
グルベローヴァ46歳のみぎりのライブである。
あえて年齢を書いたのは、ほかでもない。
最盛期の声が記録されていることを言いたいがためである。
この2年前にソルティは渋谷オーチャードホールで開かれた彼女のリサイタルに行った。
人間のものとは思えない銀色の玉のような声と、ITコントロールされているかのような超絶技巧、それでいて人情味あふれる温かくふくよかなタッチは、本作でも十分発揮されている。
そのうえ、長年の経験で身につけた“声の”演技の見事さ。
どのフレーズも完璧にドラマ的に、つまり多彩な感情表現で、色付けされている。
そのため、有名なアリアや重唱だけでなく、レチタティーヴォ(セリフにあたる部分)も聴きどころたっぷりで、最初から最後まで耳を休めるヒマがない。
もとがコロラトゥーラソプラノという鈴が転がるような声質のため、軽やかなパッセージが要求される第一幕の類いない完成度に比べれば、重くドラマチックな表現が要求される第二幕が「いささか弱いかな」という向きはあるが、ないものねだりというものだろう。
スポーツカーの敏捷性とダンプカーの重量性を兼ね備えたマリア・カラスの声と比べるのは酷である。(サナダ虫ダイエットしたと噂されたマリア・カラスのモデル体型とも)
アルフレード役のニール・シコフは、眼鏡をかけ、苦学生のような雰囲気を醸している。
尻上がりの熱演。
聞き惚れるのは、アルフレードの父親役のジョルジョ・ザンカナーロ(本名と役名が同じ!)
歌唱も舞台姿も、スタイリッシュで品格あって、カッコいい。
オペラを聞き始めた若い頃は、どうしたってソプラノ歌手やテノール歌手に注意が向いてしまうものだ。
ソルティも多分にもれず、グルベローヴァやマリア・カラスはじめ、ジューン・サザランド、モンセラ・カバリエ、キャスリーン・バトル、ナタリー・デッセイなど、ソプラノ歌手を味わうのが一番の目的だった。
ものの本には、「バリトン歌手を味わえるようになったら、一人前のオペラ鑑賞家」とあったが、その兆候はなかなか見られなかった。
が、40歳を過ぎた頃からだろうか、バリトンの魅力を知るようになった。
レナード・ウォレン、エットーレ・バスティアニーニ、ティト・ゴッビあたりが好みである。(しかし、古い世代ばかり)
考えてみれば、映画やTVドラマにしても、いまは主役よりも脇役に目が行く。
脇役の中にうまい役者を発見するのが楽しみになった。
小津安二郎の映画は、セリフも動きも間合いもあらかじめ決められていて、「型にはまった芝居」と悪口を言われることが多いが、脇役の面白さや味わいの深さは比類がない。
杉村春子、高橋とよ、中村伸郎、加藤大介、高橋貞二、高堂國典、島津雅彦・・・・
杉村春子、高橋とよ、中村伸郎、加藤大介、高橋貞二、高堂國典、島津雅彦・・・・
「型にはめる」からこそ滲み出てくる個性というものがあるのだろう。
演出・美術はオーソドックスで、奇を衒ったところがない。
『椿姫』はやはり、タキシードとドレスで飾られたパリの社交界(文字通り「パリピ」)が舞台でないと映えないよな。