2021年イギリス
90分

 キーラ・ナイトレイ主演のブラックコメディSF。
 猛毒ガスによる人類破滅が数時間後に迫ったクリスマスイブ。サイモンとネル夫妻の屋敷に仲の良い友人らが集まる。
 飲んで騒いで最後の夜を一緒に楽しむために。
 
 猛毒ガスがなぜ発生したかはっきり説明されないところが、ちょうどコロナウイルス発生の事情と重なる。ロシア云々なのか、環境破壊のせいなのか・・・。
 制作年からして、コロナ騒動を揶揄した作品であるのは明らかだが、まさにコロナ禍のまっただなかに、あえてこうしたブラックコメディを作ってしまえるところが英国らしい。
 日本ではまず作れないだろう。

 猛毒ガスは浸透性があるので、車の中や地下シェルターに逃げ込んでも無駄、防毒マスクをつけても意味がない、という設定。
 つまり、地球上にいる限りどこにも逃げ場がなく、人類を含む地上の全生命はもはや絶滅するしかない。
 猛毒ガスは非常な苦痛を伴う残酷な死を招くので、英国政府は全国民に安楽死のための薬を配布している。「ガスにやられる前にこれを飲みなさい」
 クリスマスパーティに参加する各人は、それぞれの薬を持参しているのである。

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AgataによるPixabayからの画像

 文字通り「最後の晩餐」。
 参加者は来客7名、ホスト家族5名の計12名。
 もちろんキリストはいない。
 参加者にレズビアンカップルや黒人と白人のカップルが普通にいるところが、これまた英国らしい。
 死の恐怖を抑圧した異常なテンションでパーティーは荒れる。
 過去の秘密が暴かれたり、妊娠しているのがばれたり・・・。 
 その間も毒ガスは刻々と迫っている。

 サイモンとネルの息子アートは、政府の言うことを信じず、薬を飲むことを拒否する。
 両親と喧嘩したあげく、一人家を飛び出してしまう。
 裏切者のユダか。
 が、時すでに遅し。
 毒ガスはすでに家の周囲を取り巻いて、アートは吸い込んでしまう。
 サイモンは倒れているアートを抱きかかえて家に戻り、そのまま一家心中をはかる。
 互いに、I LOVE YOU と呼びかけながら。
 ほかのゲストたちも、愛する者との別れを惜しみつつ、薬を口にする。

 登場人物全員死亡。
 全生命消滅。
 これ以上ない静かで平和なクリスマスの朝に雪が降る。

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MyléneによるPixabayからの画像

 毒ガスはどうやら一過性の致死状態を引き起こすものだったらしい。
 家族の死体に囲まれて、アートだけが息を吹き返すシーンで映画は終わる。
 キリスト復活。 

 この映画のブラックコメディたる最大の仕掛けは、生き残ったのが、安楽死の薬をもらえたのに飲むことを拒否したアートだけではなかった点である。
 英国政府は薬を配布するとき、合法的な市民でないという理由で、ある人々を排除した。
 ホームレスと違法入国者。
 彼らも復活した。

 メリー・クリスマス!




おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損