2012年幻冬舎新書

IMG_20240411_093627

 ゲイである自分にとってAV女優は意識の蚊帳の外の存在。
 その名を聞いたことがあるのは、小向美奈子と蒼井そらとANRI(坂口杏里)と小松千春くらい。
 島田陽子や飯島愛や元WINKの鈴木早智子をAV女優と言っていいのかどうか・・・・。
 むろん、ヘテロ男子向けのアダルトビデオを買ったこともなければ、AV業界のこともてんで知らない。

 自分のまったく知らない業界の裏事情を知るのは、社会勉強になるという点は別として、面白いものである。
 とりわけ、「3K」と言われる労働環境の厳しい仕事や、性風俗のような世間一般的にアンダーグラウンドとみなされている仕事に、ソルティの興味は向く。
 業界独特の慣習やシステム、専門用語に出会うと、人間のユニークな創造力に感心する。
 たとえば、ソルティが介護業界で働き始めて出会った言葉に、「アケ」「送り」「不穏」「脱健着患」「傾眠」「離被架」「DM」なんてものがあったが、職場の先輩同士が話しているのを横で聞いていてもまるで外国語みたいで、なんのことやらわからなかった。
 そのうち仕事を覚えて、こうした用語を自在に使えるようになって、一人前の介護士に、つまりは業界の人間になっていくのである。 

 当事者が語る業界内幕エッセイとしては、三五館シンシャ発行&フォレスト出版発売の『××日記シリーズ』が昨今売れていて、ソルティも愛読者の一人。
 だが、さすがにAV業界は扱わないのではないかと思う。
 それとも、『AV男優、本日もバコバコ日記』とか出すのだろうか?

 本書は、AV女優という仕事やAV業界について、多岐にわたって述べられている。
 AV女優の発掘方法、AV女優になった経緯や志望理由、労働条件、「単体」「企画単体」「企画」という3段階の格付けによる収入や扱いの違い、撮影現場の様子、プロダクションとクライエントとの関係、労使トラブルの実際、商品セールスや流通の背景、仕事上のさまざまなリスク、女優引退後の生活など。
 著者は1972年生まれのフリーライター。
 AV女優たちの衝撃的な生と性を記録した「名前のない女たち」シリーズが評判となった。
 具体的で説得力ある語りは、長期にわたって現場をよく見てきた人間だからこそ書ける特権。
 とりわけ興味深かったのは、性風俗の仕事に対する世間の意識の変化や、インターネットの普及、長引く不況による女性の貧困化がもたらした、AV女優という仕事の社会的価値の転換である。

 1990年代までAV女優という職業は、社会の底辺の一つとして認知されていた。女性の最後の手段を売るセーフティネットであった。人並みレベルのルックスとスタイルを持って覚悟を決めれば、どこかにある程度のお金になる仕事は転がっていて、さまざまな事情によってAV女優になる覚悟をした女性たちは、親や友人たちにバレることを恐れながら、カメラの前で脱ぎ、セックスをして収入を得ていた。

 これが90年代後半あたりから大きく変わったという。
 かつては街頭でのスカウト中心であったものがネットによる応募中心となり、業界不況と供給過多のため「人並みレベルのルックスやスタイル」ではもはや採用困難となり、一部の売れっ子を除けば得られる収入もどんどん減っていき、プロダクション登録していても仕事がもらえない女性が相当数いるという。
 また、親や恋人の了解のもと「あっけらかん」とAVの仕事をしている女性も増え、バレることを恐れるよりも、仕事が続けられなくなることを恐れている。
 さらには、かつては多重債務者や精神疾患のある女性、風俗を転々としている女性、繁華街で遊んでいる派手な女性などで占められていた業界が、有名大卒、一流企業OLはじめ高学歴化が進み、応募の動機も経済的なものだけでなく、「セックスが好きだから」「人生はじめてのアウトサイダー経験を楽しむため」など主体的なものが増えている。
 反社組織とつながりを持つ労働基準法無視の危険な業界というイメージが強いのだが、それは一昔前の話で、法令や警察の目が厳しくなった昨今では、労働環境も現場の安全度も格段に良くなったという。
 いまだに昭和の性風俗業界のイメージが刻印されているソルティの脳内データを、上書き・更新する必要を感じた。

 が、そうは言っても依然としてリスキーな仕事には変わりない。
 本書には、ハードSMの撮影で全治一か月以上の大けがを負った女優のインタビューや、出演女優にクスリを飲ませた上で肛門に危惧を挿入し内臓を破損させたスタッフらが逮捕された“バッキー事件”のあらましが載っている。
 より刺激的なものを求める購入者の要望に突き動かされて、密室の撮影現場において、女優本人の意志を無視した暴力行為が起こる可能性は、今後も否定できない。
 さらには、HIVなどの感染症のリスク、身バレしたときの人間関係の破綻、デジタルタトゥーによる仕事を辞めたあとの人生への影響、一般社会との感覚のずれなども無視できない。
 ソルティ思うに、もっとも困難なのは、性を売ることによって満たすことを覚えてしまった当人の承認欲求――私を認めてほしい、受け入れてほしい――を、仕事をやめた後、どう処理していくかではなかろうか。

 AV女優はスタッフやカメラの前であらゆる性行為をする仕事である。撮影現場では裸だけでなく結合部や陰部の状態まで丸見えとなる。私はAVの撮影現場を何百と見てきて慣れてしまったが、隠すべきものをすべて晒すその光景はいつの時代でも異様といえる。現在AV女優のほとんどは仕事を「刺激があって楽しい」と言う。その言葉に嘘はないが、そんな異様な刺激がなくては生きていけないカラダになってしまったら、その先の人生を普通に生きていくことができないかもしれない。個人的に、生涯AVや風俗に関わることがない人生の方が幸せであると思う。

 コロナ禍により雇用環境が悪化した折、ナインティナインの岡村が自ら反面教師の役を買って出て、「貧困女性の受け皿としての性風俗」の存在価値を世間に周知してくれた。
 まったくそのとおりで、女性たちがAVや風俗に関わらなくても十分生活していけるだけの雇用環境や育児環境がないってのが、一番の問題である。
 
 著者の中村は、高齢者デイサービスセンターを運営しているという。
 老後に行き場を失った元AV女優や元風俗嬢たちの安住の場を提供してくれるのだろうか。

IMG_20240407_175357





おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損