1952年松竹
97分、白黒
原作は井伏鱒二の同名小説。
戦後間もない東京のある町で病院を経営する初老の医師三雲八春。
戦争で一人息子を失った男やもめの彼は、甥を後継者として迎えていた。
今日は待ちに待った休診日。
甥っ子はじめ看護婦らは熱海に遊びに出かけ、三雲は手伝いの婆やと共にお留守番。
ゆっくり寝て過ごそうと思っていたのに、そうは問屋が卸さない。
急患につぐ急患で、三雲は医療カバンを手に町を走り回るのであった。
黒澤明『赤ひげ』同様の「医は仁術」をモットーとする医師の人情ドラマ。
加えて、1950年頃の日本の庶民の実相を、患者の姿を通して映し出す風俗ドラマでもある。
女のために彫った入れ墨をとってほしいと泣きつく学生、いまから小指を切るから麻酔を打ってくれと詰め寄るヤクザ、そのヤクザに貢がされ流産して肺を病む女、川に浮かぶダルマ舟の中で酸欠寸前の妊婦、治療費がなくて怪しげな薬草を病人に与える廃列車に住む貧乏一家、上京したばかりでチンピラ夫婦にだまされ強盗されたあげく強姦された女・・・・。
その合間にも、かつてお産を助けた親子がお礼にやって来るわ、戦争後遺症で頭のおかしくなった近所の男の面倒を見なければならないわ、逮捕されたチンピラ夫婦の仮病を暴くため警察に出向かなければならないわ・・・・と開院日以上に目まぐるしい一日。
日本は貧しかった。
衛生状態はひどかった。
衛生状態はひどかった。
治安は悪かった。
概して人はおせっかいで活力に満ちていた。
概して人はおせっかいで活力に満ちていた。
出演者の顔触れがすごい。
医師三雲を演じる柳永二郎ほか、長岡輝子、三國連太郎、淡島千景、角梨枝子、田村秋子、佐田啓二、鶴田浩二、中村伸郎、十朱久雄、岸惠子など。
岸惠子は本作後に、一世を風靡したすれ違いメロドラマ『君の名は』で佐田啓二の恋人を演じた。
実生活では鶴田浩二とつき合うことになる。
実生活では鶴田浩二とつき合うことになる。
ここでの3人の顔合わせが面白い。
婆やの息子で戦争後遺症で頭のおかしくなった男を、デビュー2年目の三國連太郎が演じている。
これが光っている。
決して上手い芝居ではないが、三國の洋風な二枚目ぶりとひたむきな演技が愛おしさを感じさせる。
思わず、「連ちゃん!」と呼びかけたいほど。
ヤクザの情婦を演じる淡島千景が美しい。
これだけバラエティ豊かな役者たちを使いこなす渋谷監督の腕前は言うも愚か。
上映当時のジャンル枠としては、おそらく、「下町ほのぼのユーモア人情ドラマ」ってところだと思うのだが、令和コンプライアンスを通してみると、悲惨この上なく、法令やぶりと各種ハラスメント凄まじく、“不適切にもほどがある”ことばかり。
レイプされた女性に対する周囲の扱いなんか、今では考えられないくらい粗雑。
本人に向かって、「ぬかるみに踏み込んで一張羅の着物をちょいと汚したもの」と思いなさいって・・・・。
一方で、ツケの効く医師の存在や貧乏長屋の助け合いのような、今では失われてしまったものもある。
戦後日本がどこから始まったかを知るのは面白い。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損