1993年原著刊行
1996年筑摩書房(訳・小野寺健)

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 財産があってすでに結婚している男なら、跡継ぎの息子を欲しがっているはずだというのは、ひろく世間に認められている真理である。

 ――というさわりを読んだら引き込まれ、そのまま半分以上読んでしまった。
 気がつけば午前2時を回っている。
 明日は仕事なのに!
 ジェイン・オースティン『高慢と偏見』のファンなら、「それも仕方ない」と分かっていただけるだろう。
 面白過ぎる。

 ヒロインのエリザベスを取り巻く一癖も二癖もある登場人物たち。
 由緒ある家柄ゆえ高慢なところのあるイケメン夫ダーシー。
 やさしい姉のジェインと気のいいチャールズの暢気なおしどり夫婦。
 頭が空っぽで騒がしいだけの母親ミセス・ベネット。
 その母親そっくりでミーハー根性丸出しの妹リディアと性根の腐ったその夫ウィッカム。
 偏屈で本の虫の妹メアリ。
 底意地の悪いビングリー姉妹。
 傲慢を絵に描いたようなダーシーの叔母レディ・キャサリン・ドバーグ。
 計算高い割にはとんちんかんなコリンズ氏としっかり者の妻シャーロット。

 ときはクリスマス。
 舞台はダーシー夫妻が暮らす豪壮きわまるベンバリー館。
 これだけ癖のある人間が一堂に会すれば、ひと波乱起こらないのが奇跡というもの。
 一行はあたかもトラブルに引き寄せられるように、ベンバリー館にやって来る。

 そのうえに、新たに創作されたキャラとして、ダーシーとエリザベスのあいだに男子が生まれなければベンバリーを相続することになっているオタク気質のローパー氏やら、夫を亡くしたミセス・ベネットに結婚を申し込む義足のキッチナー大佐やら、ダーシーが結婚前にフランス女に生ませた隠し子らしきが登場し、館の女主人であるエリザベスは心労の種が尽きない。
 オースティンが創造した元キャラたちと新たに創造したキャラたち、どちらをも巧みに描き分け、オリジナル作にせまるユーモアセンスを発揮するエマ・テナントの手腕は称讃に値する。

林檎の花

 ジェインの男児出産とエリザベスの妊娠発覚でハッピーエンドとなるプロット自体はたいしたものではない。
 面白さの9割以上は、ジェイン・オースティンによって創造されたキャラクターたちのぶつかり合いにこそある。
 これだけ多くの読者の脳裏に刻まれる複数の個性的キャラを生み出し得たのは、同じ英国の作家ならチャールズ・ディケンズとコナン・ドイル、本邦の作家で言えば『源氏物語』の紫式部くらいではなかろうか。
 このようなパスティーシュが作られるのは、まさにそれゆえなのだ。
 『高慢と偏見』の場合、コリン・ファース人気に火をつけたBBC制作のTV版や数度の映画化は当然のこととして、なんとまあ、『高慢と偏見とゾンビ』(セス・グレアム・スミス著)というホラーコメディのパスティーシュまで作られている。これが実によく出来ていて面白い!(映画化もされた)

 ジェイン・オースティンの天才を再認識するばかり。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損