2009年角川
202分
原作は山崎豊子の同名小説。
1985年8月12日に起きた日本航空(JAL)123便墜落事故をモデルとしている。
いろいろな意味で映画化困難と思われたものを、よく実現させ、このレベルまで仕上げたなあというのが率直な感想。
角川映画と若松監督の執念を感じる。
未曽有の飛行機事故の悲劇、会社組織に振り回される一サラリーマンの悲哀と矜持、欲と利権まみれの腐敗した経営陣や官僚や政治家。
山崎が文庫5冊分かけて描き切った幅広いテーマを、いずれも大きく損なうことなく、バランスよくまとめあげた脚本(西岡琢也)も見事である。
原作とは違って、冒頭に123便の墜落シーンを持ってきている。
そこでぐっと映画に没入した。
最後の瞬間に乗客らが機上で書いた家族へのメッセージは、涙なしで聴けない。
制作にあたって若松監督は、日本航空側の弁護団から二度ほど、「名誉棄損の恐れや遺族の感情を無視した商業主義的行為」として警告を受けたという。
「どの口が言う」という慣用句の使用例として、これ以上ピッタリなものはなかろう。
一番の見どころはやはり役者の演技。
まず、主役・恩地元を演じる渡辺謙が素晴らしい。
200分超える長尺を最後まで支えきれる堂々たる風格と重厚な演技。
共演者と息を合わせるのも上手い。
国際級のスターであるのも頷ける。
渡辺と対立するライバル社員・行天四郎役の三浦友和。
立身出世しか頭にない非人情な憎まれ役を、繊細なタッチで演じている。
三浦の場合、ルックスの良さでかえって損している気がする。
悪役をやってもなんだかカッコイイのである。
この行天という男は、さしずめ『白い巨塔』の財前五郎に相当すると思うが、このような冷徹な人間になった背景が描かれていない。(原作ではどうだったか覚えていない)
そこが少し匂わされると、人物像に深みが出るのだが・・・。
心の底では恩地を敬愛しながらも、行天の悪巧みに協力していく八木を演じる香川昭之も上手い。
組合の若き闘士から卑小な裏切り者に転じるこの役、おそらくもっとも演じるに難しい。
そこにリアリティを与える香川の実力は、やっぱり血筋を思わせるに十分だ。
墜落事故で娘夫婦と孫を亡くした遺族に扮するは宇津井健。
都会のインテリ的なイメージが強いので、大阪弁を話す好々爺の姿は最初のうち違和感があった。
が、やはりベテラン役者。
老いたる自身をありのままに曝け出して、愛する家族を失い絶望しやつれ果てた遺族の悲哀を滲ませている。
作品に品格をもたらす役者である。
品格と言えば、石坂浩二。
墜落事故後、世間から非難の矢を浴び経営的にも行き詰った国民航空を立て直すため、総理じきじきの指名を受けて会長を引き受けた敏腕経営者・国見正之に扮する。
つくづく、石坂は役に恵まれた人と思う。
金田一耕助、大河ドラマの上杉謙信・柳沢吉保・源頼朝、『細雪』の貞之介、水戸黄門・・・・。
いい役ばかり回されるのは、持って生まれた何かがあるのだろう。
汚れ役や悪役に挑戦できないのは、役者としては忸怩たるものがあるのかもしれないが。
ほか、総理大臣役の加藤剛の“老いてなお”の二枚目ぶり、恩地の妻役の鈴木京香の上品な色気、国航商事会長役の西村雅彦の絵にかいたような業突く張りが印象に残った。
本作では山崎豊子の原作どおり、国民航空の墜落原因を修理ミスによる機体後部の圧力隔壁の損壊としている。
それはそのまま、モデルとなった日本航空(JAL)123便の墜落原因として公式発表されたものであった。
山崎の小説は、組織の上層部の腐敗と組織内の風通しの悪さが、このような現場のミスを引き起こす要因になったことを示唆していた。
しかるに、森永卓郎著『書いてはいけない』によれば、JAL123便の墜落原因は機体の不備によるものではなく、まったくの外的要因の可能性が高いと示唆されている。
すなわち、外部から発射された何かが、123便の尾翼を直撃し破壊したというシナリオである。
もし、それが真実であれば、123便墜落事故のすべてが引っくり返り、JALの責任は圧倒的に軽くなる。
もし、それが真実であれば、123便墜落事故のすべてが引っくり返り、JALの責任は圧倒的に軽くなる。
いや、JALもまた被害者ということになる。
山崎豊子の原作はフィクションと謳われており、登場する人物や団体は架空の物とされているので、たとえJAL123便の墜落原因が現在我々が公式見解として受け止めているものと違ったところで、作品としての価値はいささかも失われるものではない。
この映画の価値も同様に。
39年前の御巣鷹山の墜落現場の火はいまだに燻っている。
520名の犠牲者がいまだ成仏できていないとしたら、あまりにむごい。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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