2015年講談社
2018年文庫化
推理小説の定石を覆す話題作。
容疑者が仕掛けたトリックを探偵が推理によって暴き、犯人を特定するのが、推理小説の定石である。
しかるに、本作の探偵上苙丞(うえおろじょう)は、容疑者が仕掛けたトリックを暴かんとする複数の挑戦者たちの仮説を推理によって逆に論破することで、「犯人がいない=殺人がなかった」ことを証明せんとする。
誰がどう見たって他殺としか思えない現象が、実は殺人ではなくて「奇蹟」であったことを証明せんとする。
奇蹟の証明――それが探偵の目的なのである。
ある意味、山口雅也著『生ける屍の死』以来の変化球、いや魔球かもしれない。
この上苙(しかし読めない名前だ!)の風変りすぎる目的には、もっともな動機がある。
単なる『ムー』好きの超常現象オタクではない。
そのへんのリアリティづくりが面白い。
上苙に挑戦する面々がまた超個性的で危ない奴ばかり。
鳥打帽にインバネスをまとった老師風の元検察官、巨大な売春組織を操る冷酷にして惚れっぽい中華美女、金田一少年のコピーのような小学生探偵、そして精神世界を牛耳するラスボス。
趣向は、『少年ジャンプ』あるいはロール・プレイング・ゲーム。
プロフィールに作者の生年が書かれていないので分からぬが、昭和生まれではない気がする。
プロフィールと言えば、一番びっくりしたのが、著者の学歴。
東京大学卒業とある。
これまで東大卒のミステリー作家っていただろうか?
早大卒(栗本薫)や慶大卒(夏樹静子)や京大卒(綾辻行人など多数)や名古屋大卒(森博嗣)はいるけれど、東大卒ってミステリー作家には聞いたことがない。
と思ってググったら、昨今は東大卒あるいは在学中のミステリー作家があまた出現しているではないか!
ソルティが最近の国内ミステリー事情に疎いだけだったのね。
東大出身のミステリー作家――って言うとなんだか「宝の持ち腐れ」、「牛刀割鶏」って気がしてしまうのは、ミステリーに対する冒瀆、あるいは京大出身者に対する侮辱になるだろうか?
なんか結びつかない。
でも、最近はクイズ番組に出るのが東大生の勲章みたいになってるからなあ。
ともあれ、東大の頭脳で本気でミステリーを書かれたら、凄いのが生まれるのも道理。
本作で駆使される中国文学と物理学の知識ときたら、作者が文系なのか理系なのか戸惑うレベル。
といって、無用に衒学的にならず、エンターテインメント性も高い。
ほんとうに頭の良い人は、知識をひけらかそうなんて思わないものなのだ。
まだまだミステリーの可能性は尽きない。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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