2008年日本
145分
原作は横山秀夫の同名小説。
1985年8月12日に起きた日航123便墜落事故の現場となった群馬県の地方新聞社の奮闘を描いたドラマ。
クライマーズ・ハイとは「登山者の興奮状態が極限までに達すると恐怖感が麻痺してしまう状態」を言うそうだが、これを新聞記者が特ダネをつかんだ際の心理状態とかけている。
ひょっとしたら、「高く上った者=昇天者」の意も含んでいるのかもしれない。
ひょっとしたら、「高く上った者=昇天者」の意も含んでいるのかもしれない。
横山秀夫は墜落事故があった当時、実際に群馬県の上毛新聞の記者であった。
自らの体験がもとになっているのだ。
新聞社内部のリアリティと臨場感ある描写はそれゆえだろう。
ソルティは原作を読んでいない。
どちらかと言えば、話の中心は123便の事故そのものより、地方新聞社の実態を描くほうにある。
急を要する大事件が起きた時ほど、普段隠れている社内の部署間や人間関係のさまざまな軋轢が浮き上がってくる。
過去の取材時の因縁であったり、地位や論功恩賞をめぐる男同士の争いや嫉妬であったり、限られた紙面を奪い合う各部署間の駆け引きであったり、広告・販売・編集各局間の積年の怨みであったり、社内の派閥であったり、単純な好き嫌いであったり・・・・。
それは、520人の命が一夜にして奪われるような世紀の大事件に際して、人々の感情が大きく波打ち、言動が浮足立ち、普段見栄や理性で抑えているものが露わになってしまうからである。
墜落事故に関する紙面づくりの“全権”を任された主人公悠木(演・堤真一)の視点を通して、昭和時代の一地方新聞社の実態が観る者に生々しく迫ってくる。
群像劇としての面白さが際立っている。
一方、墜落現場となった御巣鷹の尾根の惨状であるとか、事故原因であるとか、遺族の声であるとか、政治状況(たとえば戦後初の首相による靖国神社参拝)であるとか、当時を知る者なら忘れられない、事件を語る上で欠かすことのできない要素も描かれている。
逆に言えば、リアルタイムで事件を知らない世代がこの映画を観た時、どう感じるだろうか気になった。
背景に関する説明不足から、内容を理解し難く、感情移入しにくいのではないか。
つまり、観る者の記憶や体験におもねることで、作品として成り立っている部分があるような気がする。
当時大学生だったソルティはむろん、JAL123便墜落事故に関する記憶や体験を持ってしまっているので、それを持っていない目から観た時、この映画がどう見えるかが分からないのである。
その意味でも、冒頭および所々で挿入される事故数十年後の悠木の登山シーンは思い切って削っても良かったと思う。
中途半端な同僚との登山挿話および表面的なだけの悠木親子の愛憎譚を入れたため、物語の肝となる事故原因をめぐる詳細が浅く触れられるだけで終わってしまったからだ。
“日航全権“である悠木は、事故調査委員会(つまりは日航&政府)の公式発表「機体後部の圧力隔壁の破壊」という情報を、部下を使った独自取材で事前に掴み、読売や朝日など全国紙に先んじる特ダネとして第一面に掲載する準備をしていた。
が、最後の瞬間になってそれを取りやめる。「ダブルチェック」できていないからという理由で。
その決断によって、逆に他紙におくれを取ってしまい、社長はじめ全社員を失望させ、総スカン食うことになる。
悠木は自らを可愛がってくれた社長に辞表を出すことになる。
この事故原因の紙面掲載に関わるシーンこそが本作のクライマックスなのだから、そこはもっと時間をかけて背景を丁寧に描くべきであった。
もっとも、登山シーンをすべて省いてしまったら、『クライマーズ・ハイ』というタイトルの意味が薄れてしまうが・・・・。
少し前に『セクシー田中さん』問題があったが、原作小説をTVドラマ化あるいは映画化する際の難しさを感じる。
役者では、主演の堤真一、泥だらけになって墜落現場を取材する堺雅人、野望を秘めた女性記者の尾野真千子、車椅子に乗った社長役の山﨑努、悠木の天敵である等々力社会部長を演じる遠藤憲一がいい。
原田監督は、役者づかいの上手い人と見た。
映画のラスト、次の文が掲示される。
航空史上未曾有の犠牲者を出した日航機123便の事故原因には、諸説がある。事故調は隔壁破壊と関連して事故機に急減圧があったとしている。しかし、運航関係者の間には急減圧はなかったという意見もある。再調査を望む声は、いまだ止まない。
特ダネを見送った悠木の判断の正否について、いまだ答えが出ていない。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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