2023年フランス
88分
原題:Alibi.com 2

アリバイドットコム2

 『世界の果てまでヒャッハー!』で監督&役者として類い稀なるコメディセンスを見せたフィリップ・ラッショーの別シリーズ。
 北条司の人気もっこり漫画『シティーハンター』を原作とする『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』(2019)を含むコメディ10作がすでに公開されている。
 ソルティはまだ2作しか観ていないので断言はできないものの、国際的に言って、英国のローワン・アトキンソン(Mr.ビーン)、米国のジム・キャリー以来の天才コメディアンの出現と言っていいんじゃなかろうか。
 着想、脚本、演出、演技、いずれも観客の心をつかんで離さないテクニックと個性的魅力にあふれている。
 エロ系や動物虐待系のきわどい笑いもあるけれど、次から次へと繰り出す少年漫画的なギャグの応酬に、真面目に批判するのも阿保らしくなる。
 というか、“真面目”を手玉に取ることこそ笑いの骨頂である。

 スタイル的には往年のドリフのコントみたいなドタバタ&ナンセンスなのであるが、気持ちよく笑えるのはラショー監督の世界観、人生観が投影されているがゆえだろう。
 それは、多様性に対する理解と人間愛である。
 このあたり、さすが、おフランス。
 しかも、ラショー監督はシリアス社会派ドラマや恋愛ドラマでも十分通用するイケメン。
 ドリフのコントから、一瞬にしてシリアスな家族ドラマあるいはハートウォーミングな恋愛ドラマに転換して、それが不自然でない。
 イケメンはお得である。

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 面白いコメディ映画は、「こうあるべき」という思想に凝り固まった人間、他人の些細な言動にいちいち目くじらを立てる人間には作れない。
 最近では、セクハラ、アカハラ、パワハラから始まって、アルハラ、マタハラ、モラハラ、カスハラ、テクハラ、スメハラ、フキハラ、ワクハラ・・・・と、何でもかんでもハラスメントの対象になってしまう。
 何でもかんでもハラスメントにしてしまう行為に対して、ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)という言葉さえ生まれている始末。
 誰もが自分の言動にも他人の言動にも過敏になり過ぎて、他人を傷つけることにも自分が傷つけられることにも敏感にまたナーバスになり過ぎて、気をつかうことばかりで人間関係が七面倒くさくて仕方ない。
 これじゃ、令和の若者が恋愛も結婚もできない、したくないと言うのも当然だろう。

 たとえば、昭和の頃、ちょっとした猥談は職場の潤滑油みたいな位置づけであった。
 いまや性や恋愛やジェンダーやルックスに関する話題は触れないに越したことがない。
 それが、各々の個性を認め合い多様性と人権を尊重するって方向で、人々の言動やマナーが自発的に改善していくのなら結構なことであるが、どうも日本人の場合、周囲から非難を受けたり陰口を叩かれたりしないように、各々の個性を押し隠し周囲に同調させるという方向に流れがち。
 つまり、互いを牽制し合う形での人間の画一化。
 その結果として、「ハラスメントが減った」というのはちょっと違うよなあと思う。

 言いたいことは、そのような状況おいては、この映画に観るようなユーモアや笑いは生まれないだろうってことである。



 
おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損