2006年アメリカ
112分

 原題は Stranger than fiction
 「事実は小説より奇なり」(Truth is stranger than fiction)から取られている。

 税務署に勤めるハロルド(演・ウィル・フェレル)は、真面目一辺倒の独身者で、家と職場を往復する単調な毎日を繰り返している。
 ある日、どこからか女性の声が聞こえてくる。
 それは、あたかも小説家が登場人物を描くように、ハロルドの一挙手一投足や心の動きを描写する女性の声であった。
 専門家の統合失調症という診断を受け入れられないハロルドは、謎の声の正体を探ろうと、文学理論に詳しいヒルバート教授(演・ダスティン・ホフマン)のもとを訪ねる。
 ヒルバートはハロルドに、「聞こえてくる声をすべて書きとめてみろ」と助言し、そこに展開される物語の質の分析を試みる。
 2人が発見した語り手の正体は、現役の女性作家カレン・アイフル(演・エマ・トンプソン)であった。
 カレンの小説では、常に主人公は最後に死ぬ決まりとなっていた。

 現実と虚構(フィクション)が入り混じるメタフィクション・コメディである。
 虚構が現実に忍び込み、現実を支配し、現実を生きるハロルドに脅威を与え、ハロルドはそこから逃れようとあがく。
 逆の見方をすれば、自らの生きる現実が虚構であることを知ったハロルドが、意志の力で虚構を自分の思いどおりに変えようとする。  
 作者とその創造したキャラクターの対決とは、言ってみれば、神様と人間の対決、あるいは定められた運命との対決みたいなもので、面白い仕掛けだなあと思った。

 想起したのは、大学生の時に観たルイジ・ピランデルロの戯曲『作者を探す6人の登場人物』である。
 題名通り、作者が執筆の途中で筆を折ったため、宙ぶらりんで放り出された6人の登場人物が、物語の完成を求めて、続きを書いてくれる作者を探す話である。
 ラストの衝撃は、クリスティの『アクロイド殺し』を読んだ時に匹敵するものだった。
 メタフィクションという言葉を初めて知り、その威力に打ちのめされ、鑑賞後は言葉を失った。
 もっとも、『作者を探す~』は『主人公は~』と違って、悲劇あるいは不条理劇であったが。

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 ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソンというベテラン名優の出演は、お得な気分にさせられる。
 どちらも貫禄十分でありながら、コメディの登場人物として要求される“軽み”を過不足なく体現している。
 ハロルドが、カレンの書いた原稿(=自らの“物語”のラスト=自らの死という結末)をバスに揺られながら読むシーンから、ジョン・シュレンダー監督の名作『真夜中のカウボーイ』(1969)のラストシーンを連想した人は少なくなかろう。
 むろん、「ダスティン・ホフマン」と「死」がキーワードである。

 ハロルドが恋に落ちたアナ役のマギー・ジレンホールは、『ブロークバック・マウンテン』でゲイのカウボーイを演じたジェイク・ジレンホールの姉。
 可愛らしくコケティッシュな趣きが、フランスの女優ジュリエット・ビノシュの若い頃に似ているなあと思った。(間違っても、ここ最近のビノシュではない)

 マーク・フォスター監督とウィル・フェレルのコメディセンスが光る作品である。





おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損