1993年アメリカ
112分

ソドムとゴモラ

 ソドムとゴモラと言ったら、神の怒りを買って一夜にして滅ぼされた悪徳の町である。
 とくにソドムの破滅は男色行為の蔓延が主たる原因とみなされ、肛門性交を表す「ソドミー」という言葉の語源となった。
 ソドムが滅ぼされたのが住民たちの男色行為によるものなのかどうかは、研究者によって意見が異なる。
 旅人のふりをして町を訪れた二人の神の使いを足蹴にしたことが原因とする説もある。(旅人を家に泊めてもてなしたロト一家だけが、崩壊する街から逃れることができた。ただし、ロトの妻は逃げる途中、神の使いの言いつけを破って後ろを振り返ったため、塩の柱にされてしまう)
 ともあれ、ソドムは、男色行為も含め人々のありとあらゆる欲望が充満し、節制や親切や勤勉といった美徳が欠落した町だったのである。
 出典はもちろん『旧約聖書』だ。

 本作は、アメリカ制作の「歴史スぺクタクル超大作」という売り文句で、DVDジャケットには火の海となったソドムの絵が使われている。
 酒池肉林のソドムの映像(BLエロシーンあり)や、ポール・アンダーソン監督『ポンペイ』のようなVFXを駆使した迫力たっぷりの派手な破壊シーンが観られるのかと思って、レンタルした。

 ところがどっこい、看板に偽りあり。
 思っていたのとは違っていた。
 それもそのはず、本作の原題は Abraham「アブラハム」。
 つまり、『旧約聖書』創世記に出てくる最初の預言者で、すべてのユダヤ人、すべてのアラブ人の祖と言われる聖人の伝記だったのである。
 しかも、20分に一度くらい映像が途切れて暗くなる瞬間がある。
 映画ではなくて、CMタイム折り込み済みのTVドラマであった。
 となると、「スぺクタクル超大作」という煽りも空しいばかり。
 ソドムの破壊シーンは、円谷プロ『ウルトラシリーズ』ほどの迫力もなかった。

 期待は見事に裏切られたものの、ドラマとしてはなかなか面白かった。
 ソルティは『旧約聖書』の内容をしっかり把握していないので、アブラハムの生涯とソドムの破壊がどう関わるか、知らなかった。
 アブラハムと言えば、たしか神に命じられて自分の息子を生贄に捧げようとした男だったな、くらいの印象であった。
 妻サラとの間に子供ができなかったため妻の召使と関係して最初の息子イシュマエルを作ったとか、齢100歳過ぎてから90歳のサラとの間に息子イサクが生まれたとか、ユダヤ人が割礼の習慣を持つそもそもの起源がアブラハムと神との交信にあったとか、はじめて知ることが多かった。
 それにしても、「男児が生まれたら、8日目に包皮を切りなさい」と命令する神様の意図ってなに?


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Engin AkyurtによるPixabayからの画像

 アブラハム役のリチャード・ハリスは、『ハリー・ポッター』シリーズ第1、2作でダンブルドア校長を演じた名バイプレイヤー。
 このTVドラマがそれなりに見ごたえあるのは、彼の演技の質の高さによるところが大きい。
 100歳にして授かった息子イサクを生贄に捧げるシーンの苦悩の表現(その裏返しとしての神への帰依の表現)は、役者経験と人生経験の蓄積あってこその深み。
 信者の帰依の度合いを確かめたがる神様のパワハラ気質への不快も、ハリスの名演によって緩和されよう。

 「ああ、そうなのか」と知ったことの一つ。
 アブラハムの息子イサクの英語読みはアイザック。
 つまり、物理学者アイザック・ニュートン、SF作家アイザック・アシモフ、ヴァイオリン奏者アイザック・スターン、物理学者ジェローム・アイザック・フリードマンと同じである。
 ユダヤ系男子に多い名で、上記のうちニュートン以外はユダヤ系である。
 その意味は「彼は笑う」なのだと。




おすすめ度 :★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損