1962年アメリカ
84分、白黒
ロジャー・コーマンはB級映画の帝王として名を馳せた人で、最も知られている作品はミュージカルになって大ヒットした『リトル・ショップ・オブ・ホラー』(1960年)であろう。日本でも何度も舞台化されている。
エドガー・アラン・ポーの小説を原作とする怪奇映画でも知られており、『アッシャー家の惨劇』(1960年)、『恐怖の振子』(1961年)、『姦婦の生き埋葬』(1962年)、『赤死病の仮面』(1964年)、『黒猫の棲む館』(1964年)などがある。
ミステリーファンのソルティが一時はまったのは言うまでもない。
ミステリーファンのソルティが一時はまったのは言うまでもない。
本作はロジャー・コーマン唯一の社会派映画で、まったくもってB級ではない。
日本劇場未公開で、DVD発売は2012年というから、実に半世紀たってのお目見えである。
こんな映画を撮っていたとは思いもよらなかった。
それも非常によく出来た傑作で、脚本といい、演出といい、撮影といい、演技といい、音楽といい、間然とするところがない。
なぜ日本で公開されなかったのか不思議である。
白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)をバックに持つ組織から南部のある町に派遣されたアダム(演・ウィリアム・シャトナー)は、法律で決まった「人種統合政策」に反感を抱く町民たちを巧みな演説で焚き付け、組織化し、町に住む黒人少年少女らが地元高校に入学するのを阻止しようと企む。黒人の地位向上に不満をたぎらせていた町民たちは、アダムを中心に反対運動に連なるが、次第に暴徒化していく。黒人たちの教会を爆破して牧師を殺害し、統合政策に賛成する白人の新聞記者を集団リンチし、当のアダムですらコントロールできなくなっていく。
60年代のアメリカの人種差別をめぐるリアルな状況が、生々しく、迫力たっぷりに描かれている。
リンカーンによる奴隷解放宣言(1863)から100年経っても、現実はこのようなものだったのだ。
それを思うと、その後の半世紀のアメリカの人権状況の向上は十分評価に値しよう。
やはり、マルコムXやマーティン・ルーサー・キングに象徴される50~60年代の公民権運動は偉大であった。
他人事のように言っているが、実のところ本作を観ていて思ったのは、「現代日本人の他人種に対する意識のありようは公民権運動以前のアメリカ人に等しいかもしれない」ってことであった。
埼玉県川口市におけるクルド人問題を筆頭に、いま日本各地で外国人移住者と地元民との間で軋轢や紛争が起こっている。(それもなぜか非難されるのは非白人種ばかり)
排外主義的な言動はこれまでになく高まっており、ネットでなんらかの他人種・他文化に対する差別発言や敵対的言動を見ない日はない。
そもそも日本は、在日朝鮮人や在日中国人、東南アジアから日本に働きに来る外国人労働者に冷たい国であった。
日本の多文化共生政策、日本人の公民権意識向上に本腰を入れるべきはこれからなのであって、黒人差別をする白人を批判する資格も余裕もないのである。
侵入者アダムを演じるイケメン白人のウィリアム・シャトナーはどこかで見た覚えがあると思ったら、なんと『スタートレック』のカーク艦長ではないか!
TV シリーズ『宇宙大作戦』の開始が1966年だから、その4年前の出演作ということになる。
ここではカーク艦長とは真逆の悪役であるが、それがかえってシャトナーの演技力の高さを証明してあまりない。
大衆を前に人種統合政策反対の演説をぶつシーンは、ヒトラーもかくやとばかりの素晴らしいスピーカーぶりを発揮して、TVモニターの前にいてさえ陶然となり、思わず賛同してしまいそうになる。
おそらく映画史の中で最高の演説シーンの一つであろう。
このシーンを見るだけでも、この映画を観る価値はある。
原作はチャールズ・ボーモントの小説 “The Intruder”。
原作者自身も校長先生役で出演しており、なかなかの好演である。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損