2006年東宝、フジテレビ
136分

有頂天ホテル


 役所広司、松たか子、佐藤浩市、香取慎吾、篠原涼子、戸田恵子、生瀬勝久、麻生久美子、YOU、オダギリジョー、角野卓造、寺島進、近藤芳正、川平慈英、梶原善、石井正則、原田美枝子、唐沢寿明、津川雅彦、伊東四朗、西田敏行 e.t.c
 オールスターキャストの贅沢なコメディ。
 東宝だけではこれだけ集められないだろう。
 テレビ完全勝利のアピールのようにも思えるが、それもまた過去の栄光。
 今となっては、道長のごとき栄華を誇ったフジテレビの落日最後の輝きのように思える。
 少なくとも、出演者の顔ぶれに関しては・・・。

 『記憶にございません!』、『ステキな金縛り』と、三谷幸喜脚本&監督作品の面白さに唸らされてきたが、ここで小休止。
 天才もいつも成功するとは限らない。
 本作は失敗作である。
 観ながら、「早く終わらないか」とイライラしてしまった。

 失敗の原因を察するに、本作がグランド・ホテル形式の作品であることが上げられよう。
 命名のもととなったグレタ・ガルボ主演『グランド・ホテル』のように、「あるひとつの場所を舞台に、特定の主人公を設けず、そこに集う複数の登場人物の人間ドラマを並行して描く物語の手法」(byウィキペディア「グランド・ホテル形式」)である。
 であるがゆえに、たくさんの主役級スターを、それぞれの個性や演技力を生かしながら、不自然なく、共演させることが可能となるわけだ。
 邦画なら遊郭を舞台にした川島雄三監督『幕末太陽傳』が典型であり、洋画ならクリスティ原作の『オリエント急行殺人事件』(豪華列車が舞台)や『ナイル殺人事件』(豪華客船が舞台)もその類型と言えるだろう。

 様々なキャラクターが右往左往し様々な人間ドラマが展開される、言ってみれば「社会の縮図」がそこにあるわけで、観る者はそれを俯瞰する立場に身を置く。
 一つの作品で複数のドラマを楽しめる一方、一歩間違えれば、浅い人間ドラマの詰め合わせになってしまうリスクがある。
 残念ながら、本作は一歩間違えてしまったケースである。

 そもそも三谷幸喜は根っからのコメディ作家であって、深い人間ドラマを得意とする人ではない。
 大人の男女の複雑な機微や、家族間の深刻なトラウマや、深刻かつ挑発的な社会問題をテーマに持ってきて、観る者の心に一生刻まれるような感動や衝撃を与える作品を書かない(書けない)。
 天才的発想のプロットを骨子に、既存のありふれた喜怒哀楽ドラマの型を巧みに組み合わせ、コメディ仕立てにするのが巧いのである。
 浦沢直樹コミックのドラマ版と言えば近いだろう。
 描き出される人間ドラマ自体は少年漫画のように凡庸で浅いものなので(悪口ではない)、複数のドラマが進行するグランド・ホテル形式をとることで、一つ一つのドラマはさらに浅くなる。
 そのうえにコメディ仕立てなので、全編に『ドリフの大爆笑』のようなギャグ風味が漂う結果となった。
 それならいっそ、ドリフやバスター・キートンのようなスラップスティック・ナンセンス・コメディに徹してしまえば良いのだが、変に人間ドラマとしての感動を真面目に狙ったりしているものだから、どこぞの局の『〇〇時間テレビ』のような安っぽい感動のバーゲンセールみたいになってしまった。
 子供は騙せても、大人の観客はうんざりするばかりだろう。

  天才もたまには失敗するということを知って、凡人の一人としてほっとした。
 泉ピン子と赤木春恵の「幸楽」嫁姑戦争から解放された角野卓造の溌溂とした演技が見物である。


卵くん



おすすめ度 :

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損