2012年日本
103分
浅井リュウ原作の青春ドラマ。
一時ずいぶん話題になったが、原作は未読、映画も未見だった。
神木隆之介が気になってレンタルしたのだが、正直、こんないい映画だとは思わなかった。
こういう作品に出会い頭ぶつかるから、映画を観るのをやめられない。
テーマは「THE 高校生活」。
とりたてて大きな事件が起こるわけでなく、平凡な高校生たちの日常の一コマが描かれる。
友情あり、片思いあり、恋愛あり、希望あり、迷いあり、コンプレックスあり、見栄あり、嫉妬あり、失恋あり、挫折あり、将来への不安あり、無気力あり、怠惰あり、葛藤あり・・・。
平成時代の青春ドラマである。
ちょっと変わっているのは、3日間の学校生活の中で起こる出来事を、複数の登場人物の視点から、繰り返し描いていく手法である。
つまり、映画の中で時間が何度かループし、確たる主人公は指摘できない。
この手法および高校生活というテーマが、ムラーリ・K・タルリ監督の『明日、君がいない』(2006)を連想させる。
複数の登場人物はそれぞれが、他人に言えない悩みや苦悩を抱えながらも、表面上は取りつくろって無難な日常生活を送っている。
『明日、君がいない』の場合は、最終的に登場人物の一人の自死という悲劇的結末に終わる。
本作はそこまで深刻ではなく、ラストに屋上でのちょっとした騒ぎはあるものの、穏やかな結末となっている。
また、タイトルに出てくる肝心の「桐島」が、最初から最後まで出てこないというのもミソである。
これは、サミュエル・ベケットの『ゴトーを待ちながら』や三島由紀夫の『サド侯爵夫人』と同じ手法である。
桐島はいわば、台風の目のように、周囲に怒涛のドラマを巻き起こす真空としての役割を担っている。
学園のヒーローである桐島が「部活をやめる」というただそれだけのことが、池の中心に石が落とされたように、波状的に影響を広げていく。
そのさざ波の中で揺れ動く高校生たちの心模様をとらえたドラマということができる。
またひとつ、青春映画の傑作の誕生である。
この映画には、しかし、もう一つのテーマを読むことができる。
「THE高校生活」を表のテーマとすると、裏のテーマは「映画の勝利」あるいは「オタクの逆襲」である。
容姿や運動神経や成績や恋愛経験値や親の収入などによってクラス内カーストが形成されてしまう高校生活において、映画部の少年たちはカーストの底辺に位置する。
陰キャ、見た目がダサい、キモイ、気が弱い、女子に無視される、不器用、幼稚っぽい、二次元偏愛・・・つまり、オタクの集まりである。
神木隆之介演じる前田はその代表格で、カッコよくて女子にもてるカースト上位の桐島や菊池(東出昌大)と対照的な存在である。
好きになった女子(橋本愛)と普通に会話を交わすこともできず、またたく間に失恋してしまう。
だが、さえないオタク少年として終始描かれてきた前田が、最後の最後になって堂々のメインキャラに躍り出てくる。
それがほかならぬ、「カメラを通して世界を見る」という、そのことによってであるところがなんとも感動的なのである。
校舎屋上における映画部とバレー部の喧嘩騒ぎが済んだあと、ほんの気まぐれから前田の持つカメラを借りてファインダーを覗き込んだ菊池は、そこに、映画への愛や将来の夢を語る前田の姿を見る。
ふだん教室の中では関心を持たず、接点もなく、知ることもなかった、前田というクラスメートの生き生きした顔と輝きをレンズの向こうに見る。
そう、はからずも菊池は、カメラという無機物によって、ふだんは見えない人間の“真の姿”が映し出されてしまうからくり(=映像のマジック)に気づくのだ。
次に、カメラを返された前田がファインダーを覗き、菊池を見る。
そこに写された菊池は、いつもどおりのカースト上位らしいカッコよさ(なんと言っても東出である)。
前田はそのルックスに感嘆の声を上げる。
が、菊池は戸惑いを隠せない。
カメラによって映し出されたであろう自分の“真の姿”に自信が持てないからだ。
前田における映画のように、あるいは野球部の先輩のように、一心に打ちこめるもの、損得を超えて愛することのできるものを持たない空っぽの自分、輝いていない自分を、前田の目を借りて直視するからだ。
菊池は前田に対してはじめて劣等感を抱く。(前田はまったくそこに気づかない)
カーストが一瞬ひっくり返るこの瞬間こそ、オタクの逆襲であり、映画の勝利なのである。
実際、映画の前半では東出のカッコよさに一方的に押され、芝居的には喰われる一方だった神木が、ここに来て東出を圧倒する存在感を獲得する。
そこに、おそらくは原作にはない映画ならではの、吉田監督のたくらみがあったのではないかと思う。
東出昌大、神木隆之介、橋本愛、仲野太賀、山本美月、松岡茉優など、現在活躍中の実力派若手俳優が奇跡的に集結している。
というより、本作の出演がきっかけとなって、それぞれが羽搏いていったのだろう。
東出はその後スキャンダルを起こし、役者人生の危機に見舞われたが、やはり、テレビ業界はともかく、映画界や演劇界はいい俳優は見捨てない。ルックスの良さは別にしても、光るものがあることは、本作で証明されていた。
神木はCMでいつも思うが、表情づくりの天才。シチュエイションが要求するものを、演出家のプランや指示を超えて、巧みに表現する能力がある。この人はいつか本当に映画を撮る(監督になる)のではなかろうか。
橋本愛のクールな存在感も素晴らしい。印象的な瞳がスクリーンに映える。
言い落してはならないのが撮影の素晴らしさである。
だれが撮っているのだろう?
調べたら、山下敦弘監督と組んで『天然コケッコー』や『マイ・バック・ページ』を撮った近藤龍人ではないか。
やっぱり、名キャメラマンである。
ラストの屋上シーンの美しさはまさに映画の勝利を語っている。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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