1997年フジテレビ、東宝
103分

ラヂオの時間

 三谷幸喜の初監督作品。
 これは文句なく面白かった。
 もとが三谷が設立した劇団「東京サンシャインボーイズ」の舞台劇であったこともあり、三一致の法則に則った、空間的カセ(ラジオ局のスタジオ内)と時間的カセ(生放送ドラマの制作)による劇的効果が最大限発揮されている。
 そのうえに、業界的カセ――主演女優はじめ役者たちのプライドやわがまま、スポンサーへの配慮、シナリオ上のリアリティなど――がドラマ制作チームの肩にのしかかる。
 やはり、カセがあるとドラマは生きる。
 デビュー作ならではの絵的ぎこちなさは随所に見られるものの、これまでに観た三谷作品の中では、これが一番良かった。

 端役に至るまで役者たちがイキイキと芝居しているのがなんとも気持ちいい。
 藤村俊二、井上順、小野武彦、並樹史朗、モロ師岡、梶原善、梅野泰靖、近藤芳正の愛すべき個性的魅力。
 鈴木京香、布施明、渡辺謙の配役の意外性の魅力。
 西村雅彦、戸田恵子、細川俊之の芝居達者な魅力。
 当時トレンディドラマのスターだった唐沢寿明がカッコよすぎて若干浮いている気もするが、興行的効果を考えれば真っ当な配役だったのだろう。

 三谷作品にあっては、「脇役こそが主役」という不可思議なパラドックスが成立している。
 下手に主役に抜擢されるよりは、脇に使ってもらったほうがかえって印象に残るのである。
 本作では、個人的に近藤芳正が良かった。
 本作の醸し出している風合いとイコールで結ばれるべきは、鈴木京香でも西村雅彦でも戸田恵子でもなく、近藤芳正だと思う。
 映画を観る者は、おそらく、近藤芳正演じる車のセールスマン鈴木四郎の立場に身を置いて、すなわち市井の庶民の一人として、目の前で展開する騒々しい業界ドラマを見物している。
 だから、鈴木四郎の名がドラマの役名ジョージとしてラストクレジットでアナウンスされる瞬間、おもがけない感動に足をすくわれるのである。
 それは、観る者もまたこのドラマに参与する瞬間であるからだ。

 三谷には、大物になりすぎてどうにも動きがとれなくなっている“裸の王様”木村拓哉の再生に挑戦してほしいものである。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損